1 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/29(土) 03:49:57.23 ID: AwqA6rio0

― 4 ―

ベルカキト廃駅から戻り、数日静養した。

幸いなことにその数日は天候にも恵まれ、初冬にしては比較的暖かな日が続き、
僕の体力も滞りないまでに戻っていった。

その間、ちんぽっぽとビロードに狩りをさせていたらしいショボンさんは
――もっとも、ビロードはただちんぽっぽの尻を追いかけるついでに狩りをしていただけらしいのだが
――二匹が狩ってきた小動物の肉を手際よく塩樽に入れ、保存食として蓄えていた。

 

 

3 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/29(土) 03:52:46.17 ID: AwqA6rio0

(´・ω・`)「ビロード君とちんぽっぽのコンビはなかなかのようだ。
     おかげでいつもより多くの肉が手に入ったよ。
     もっとも、ビロード君はすっかりちんぽっぽの尻に敷かれてしまっているようだがね」

ショボンさんとともに、焼かれた肉をテントで食す。

それはこれまで僕が何度か食したことのある小動物の肉らしいのだが、
味は全くと言っていいほど異なり、臭みもなければ肉も硬くない、
絶妙な味付けに彩られた非常に美味な代物だった。

( ^ω^)「どんな生き物も、女の方が強いもんですお」

(´・ω・`)「あっはっは! まさにその通りだ!」

世界の終わりを前にしても笑って希望を語った女。
五年の孤独に耐え続けた女。

極上な焼き加減の肉に舌鼓を打ちつつ、二人のことを思い出して床の上から呟いた僕の言葉を受け、
ショボンさんは顔を笑いに崩しながら腹を抱えた。

 

 

5 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/29(土) 03:56:05.79 ID: AwqA6rio0

(´・ω・`)「僕も嫁には頭が上がらなかったものさ。
     娘も嫁の気性を受け継いでいてね。ちんぽっぽもあの調子だろ? 
     そう考えると、家族の中で一番弱かったのは僕じゃなかったのかな?」

( ^ω^)「おっおっお。そうなんですかお」

何気ない顔で笑い返した僕だったが、それ以上、彼の家族について尋ねることはしなかった。

ショボンさんの語る家族の話はすべて過去形だったし、
現にショボンさんはちんぽっぽとともに一人で旅をしている。

それだけで彼の家族がもうこの世にいないか、
もしくは何らかの理由で別れたということを推察するには十分だったからだ。

 

 

7 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/29(土) 03:57:37.69 ID: AwqA6rio0

やがて、僕の体力も戻りきって間もなく。
旅の準備を整え始めたショボンさんは、もと来た道を戻っていくと言った。

(´・ω・`)「もうすぐ冬も本番に入る。
     本来なら春が来るまで寒さをしのげる場所に定住すべきなのだがね。
     ここは平地で木も穴倉もないから、雪や風による寒さをもろに受けてしまう。
     一度引き返し、神話の道沿いに適当な場所を探すことにするよ」

( ^ω^)「そうですかお」

手慣れた手つきでテントをたたみ、無駄なスペースを残さないよう台車に荷物を積んでいくショボンさん。

僕も同じように自分のそりへ荷物を積んでいたのだが、
千年前の書物を燃やして以来、積み荷の量は圧倒的に少なくなっていたため作業はすぐさま終わってしまい、
あとはそりの縁に腰かけて、ショボンさんの作業をのんびり眺めることくらいしかすることがなかった。

手持ち無沙汰にショボンさんの作業を手伝おうともしたのだが、

(´・ω・`)「病み上がりの君に無理はさせられない。気持ちだけありがたく受け取っておくよ」

そう言って、ショボンさんは穏やかに笑うだけだった。

 

 

8 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/29(土) 03:58:21.42 ID: AwqA6rio0

何もすることのない僕は、そりの上でボーっと、
遠くでじゃれあっているビロードとちんぽっぽを眺めることにした。

相変わらず積極的なアプローチをかけるビロード。
そんな彼に、強烈な後ろ蹴りをかますちんぽっぽ。

バイオレンスに満ちていながら、なぜか二人の間には親近感が漂っていて、

( ^ω^)「いいコンビじゃないかお」

なんて、思わず呟いてしまっていた。

 

 

10 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/29(土) 04:00:18.07 ID: AwqA6rio0

その後、荷物の積み込みを終えたショボンさんが額の汗を軽く拭った。
頃合いかと思い、僕は彼に声をかける。

( ^ω^)「ショボンさん。僕も一緒に連れて行ってくれませんかお?」

死ぬ以外に特別な目的もなく、ビロードが生きている間は生き続けようと思っていた僕は、
千年後のシベリア鉄道自体にも、
その終着駅たる、おそらくはモスクワのことであろう神の国とやらにも興味があったし、
ショボンさんが何をもって旅をしているかも気になっていた。

何より彼と別れて別の道を行くと言えば、
ちんぽっぽに付きまとっているビロードが大反対するだろうと思い、
旅への同行をショボンさんにお願いした。

 

 

12 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/29(土) 04:02:57.93 ID: AwqA6rio0

もちろん、誰かと旅をすることの危険性は理解している。

旅人の死因は、餓えることや獣に食われることよりも、他人に拠るものが一番多いのだ。
いつ寝込みを襲われるやもしれないし、翌朝荷物ごととんずらをこかれる可能性だって十分にある。
誰かと旅をするということは、これらの責任を自らに課すということなのだ。

けれど、それ以上に好奇心が勝った。

そして、たとえ善良そうなショボンさんが僕を襲ったとしても、
懐の銃さえあれば大丈夫だろうという安心感もあった。

損得のせめぎ合いの結果の決断だった。

しかしショボンさんは、僕の内心など知ってか知らずか、
さも当然といった様子で言い放つ。

(´・ω・`)「何を言っているんだい? 君も『神話の道』の先を目指しているんだろう?
     ならば、君とともに旅することを拒む理由が、僕のどこにあるというのだろう?」

 

 

15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/29(土) 04:04:35.29 ID: AwqA6rio0

( ^ω^)「……」

彼の善意からきたであろう言葉に、僕は少なからず落胆した。

僕とショボンさんが過ごした時間は、まだ一週間と少し。

そんな僅かな時間だけで簡単に僕を信頼してしまっている彼の無警戒さが、
僕にはどうしても引っかかってしまったのだ。

これまでたくさんの人間の影を見続け、数多くの辛酸を舐めさせられてきた僕と内藤ホライゾンの記憶が、
「人間とはそんなに甘いものではない」と、心の中で目の前の善良そうなロシア人に向け呟いていた。

ところが、知らず心中の思いが顔に表われていたのだろう。

それまで朗らかな笑みを浮かべていたショボンさんは、突然表情を険しくさせると、とても低い声で言った。

 

 

16 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/29(土) 04:06:06.01 ID: AwqA6rio0

(´・ω・`)「勘違いしないでくれ。僕は誰でもほいほいと付いてこさせるような男ではない。
     これでも多少の人生経験は積んでいるつもりだ。
     人間の恐ろしさというのも、もちろん理解している」

( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「ただ、それを踏まえた上で、君ならば同行させても大丈夫だろうと思ったんだ。
     君は理性的な顔付きをしている。神話の道を見たいと言った時の君の目の輝きも本物だと思った。
     素晴らしい好奇心も持っている。ビロード君という素晴らしい犬の飼い主でもある。
     なにより君は善良そうな男だ。君はきっと、純粋な旅人なんだろう。ただし……」

( ^ω^)「ただし……なんですかお?」

まっすぐ、睨みつけるようにショボンさんの顔を見つめた。
その先で彼は、これまで見た中で一番真剣な顔つきをして、言った。

(´・ω・`)「僕の方が、圧倒的にカッコいいけどね」

 

 

17 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/29(土) 04:08:12.50 ID: AwqA6rio0

( ^ω^)「……おっおっおwwwwwwwwww
     何言ってるんですかおwwww僕の方がカッコいいですおwwwwww」

(´・ω・`)「いやいや。申し訳ないが、僕の方が百倍カッコいい」

快晴の空の下。
どこまでも続く大陸の上に、僕とショボンさんの笑い声が響いた。

面白い人だ。
たとえ殺される危険性があったとしても、彼を信じずに交流を絶ってしまうことは何とも損である気がした。

警戒心が解け、自然と笑い声が大きくなってしまう。
心から楽しいと思ってしまっていた。

その声を耳にしてか、遠くでじゃれあっていたビロードとちんぽっぽもまた、
嬉しそうにしっぽを振って僕たちの足元に集まり、「おーん」と大きな遠吠えをあげた。

旅の始まりを祝う華やかな声は、無機質な荒野の上を、ゆるやかな風と共に静かに流れていった。

 

 

19 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/29(土) 04:09:48.22 ID: AwqA6rio0

そののち、ショボンさんは柔和な笑みのまま、
着込んだ防寒着の懐から何かを取り出し、自らの前面に掲げる。

(´・ω・`)「これが僕の奥の手だ」

それは調理用のナイフとは比べ物にならないほどの存在感と威圧感を誇った、
刃渡り数十センチにもわたる巨大なナイフだった。

彼は深い茶色をした革鞘からそれを抜き、刀身を白日の下にさらす。
刀身は艶のない漆黒をしていて、日の光を浴びても夜のような闇色を昼の中に浮かべている。

(´・ω・`)「僕の家系に代々伝わるナイフさ。これを君の前に晒したということは、
     君に襲われた場合、僕はもうどうしようもなくなる。
     君はこのナイフの存在を前提に、僕に攻撃を仕掛けてくるだろうからね」

( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「これが、僕が君を信じるという覚悟の証であり、旅に対する誓いだ。
     もし君が応じてくれるというのなら、証と覚悟を僕に見せてくれたまえ」

 

 

20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/29(土) 04:11:18.84 ID: AwqA6rio0

漆黒のナイフの先にあるショボンさんの瞳を、僕はじっと見つめた。
彼のやわらかな眼差しの中に強い決意の火が燃えている気がして、僕もそっと、懐に手を入れた。

たとえ銃の存在を知られても、いざというときショボンさんを打ち抜く自信は十分にあったし、
何より彼はそんなことはしないだろうと、感覚が僕に教えてくれていた。

ショボンさんのナイフと同じ色をした銃。取り出して前に掲げる。

(´・ω・`)「……不思議な形をしたナイフだね」

( ^ω^)「いえ、ナイフではありませんお。銃という……えっと、僕の村に伝わる武器ですお」

(´・ω・`)「そうか。それが君の奥の手だね?」

 

 

21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/29(土) 04:12:46.77 ID: AwqA6rio0

( ^ω^)「はい。間違いありませんお」

それからショボンさんはニヤリと唇を釣り上げ、そっと、ナイフを持つ手を僕の方に伸ばす。

その笑いの先に僕は、初めて出会った時のドクオの不細工な笑い顔を思い返していた。
そして気づけば、ショボンさんと同じように銃を持つ手を前に伸ばしていて、
握られていたナイフの刀身に銃身を軽くぶつけていた。

コンと、金属と金属の接触とは思えないくぐもった音がした。

どうやらショボンさんのナイフは、普通の金属ではない素材で造られているようだ。
ウラジオストクが出身地と言っていたことから推察して、おそらくはレアメタル製のナイフなのだろう。

そのあと彼がナイフを天高く掲げたので、僕も同じように銃口を空へと向ける。

 

 

24 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/29(土) 04:13:25.84 ID: AwqA6rio0

(´・ω・`)「僕たちの旅に栄光あらんことを」

( ^ω^)「おっおっお」

儀礼的な言葉を述べる彼を前にして照れが出て、思わず笑ってしまった。
それを隠すように僕は、握った銃の引き金をカチャリと引いた。

快晴の空の中へ、パンと乾いた音が響いて、消えた。

わずかに驚いた様子のショボンさんとちんぽっぽ、
そして当り前のような顔をしたビロードと僕の二人と二匹は、
しばらくの間、ずっと空を見上げ続けていた。

 

 

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