39 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 22:03:01.87 ID: JwxJKOdv0

― 5 ―

季節は流れ、気が付けば夏を通り越し、秋もその姿を季節の向こう側に消し始めていた。

この村に留まって、これでちょうど一年近くになる。
はじめは冬の間だけの予定だったのに、村人に請われるがまま旅立ちを延期するまま、いつのまにかこんな季節になっていた。

(*゚ー゚)「ブーン兄ちゃん! これあげる!」

( ^ω^)「……お? おお! これはすごいお!」

(*゚ー゚)「かぶって! かぶって!」

( ^ω^)「おっおっお。どうかお? 似合うかお?」

(*゚ー゚)「う〜ん……あんまし」

(;^ω^)「そ、そうなのかお……」

 

 

41 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 22:04:23.01 ID: JwxJKOdv0

その日、僕はしぃが作ってくれた花冠を被りながら、村の郊外の草原に寝転び、ボーっと考え事をしていた。

村の生活にもすっかり慣れた。
しぃちゃんやギコ、村人たちとの関係も良好だ。ここでの生活に居心地の良さすら感じる。

しかし、どうしても解決できない疑問がいくつか頭の内にあった。
秋晴れの空を見上げながら、僕はそれについてのんびりと思案をめぐらす。

ひとつ目の疑問は、村人の、特に大人の体が異常に細いこと。それも病的といっていいほどにみなげっそりと、だ。

どんなに思案をめぐらしても、これに対する答えは見つからない。

 

 

44 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 22:06:04.99 ID: JwxJKOdv0

そういう遺伝子を持った民族なのかとも考えたが、ふたつ、例外があった。

ひとつは、村の子どもたち。
彼らは千年前の、この国の同年齢の子どもたちとさして変わりない、健康的な発育をしている。

そしてもうひとつは、ドクオだ。
彼は長身で、細身ながらも筋肉の均等についた、理想的な体つきをしていた。

だのになぜ、ほかの村の大人たちはみな、痩せこけているのだろうか? 

( ^ω^)「どんなものにも例外はあるお。だけど……」

こればかりは例外では済ませられないと、かつての天才、内藤ホライゾンの脳みそが僕に警告していた。

 

 

45 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 22:07:26.98 ID: JwxJKOdv0

さらに、もうひとつの疑問。
それはそのドクオが、この一年、村にはおろか、僕の前にさえ一度も姿を見せなかったこと。

おまけに僕がドクオのことを話題にあげれば、村長はおろか、村の大人すべてが口を閉ざしてしまうのだ。
まるで「ドクオという人間は存在しない」、と言わんばかりに。

かといって、彼が村に関わっていないわけではなかった。
たとえば、石橋を架ける作業をしていたときのこと。翌朝現場に赴くと、決まって前日の終わりより作業が進んでいるのだ。

同様のことは井戸掘りの際にも起こっていた。
しかし村人は「まーたあいつだっぺか」と口々に呟くだけで、何事も無かったように作業に移る。

「あいつとは誰か」とたずねても、誰も答えてはくれない。

 

 

46 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 22:09:04.81 ID: JwxJKOdv0

しかし、「あいつ」とは間違いなくドクオのことを指すはずだ。彼以外には考えられない。
けれど、村人たちは当たり前のようにドクオの存在を無視し続ける。

それがあまりにも気になって、ドクオの家を何度か訪ねたりもしたのだが、
僕の来訪を見越していたかのように、毎度、彼の家は留守だった。

(*゚ー゚)「ドクオ兄ちゃん元気だったべさ。ブーンさによろしくだってさぁ」

しかし、ギコやしぃちゃんが遊びに行ったときには家にいるようで、
二人からの伝言だけが、僕とドクオとをつなぐ唯一の接点となっていた。

 

 

48 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 22:11:04.10 ID: JwxJKOdv0

ほかにも不可解な点はたくさんある。

大人の数に対して子供の数が異様に少ないこと。
夕方のいっとき、決まって大人の姿が村から消えること。等々。

( ^ω^)「……この村は、僕に何かを隠しているお」

それが、この一年で僕の至った結論だった。
しかし、僕はそれらを疑問には思うにしろ、無理やり解決しようというところまでには思い至らなかった。

なによりこの村は居心地が良かったし、かつての内藤ホライゾンならまだしも、
今の僕の意識は、平穏な今の生活を崩してまでそれを知りたいという知的好奇心に満たされてはいなかったから。

 

 

51 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 22:13:08.95 ID: JwxJKOdv0

(*゚ー゚)「ブーン兄ちゃん、そろそろけぇろ?」

( ^ω^)「お? もうこんな時間かお」

しぃの言葉に考えるのをやめれば、風になびく草原はすでに茜色に染まっていた。
すっかり短くなった日の沈みを眺めながら、僕たちは草原から村へと戻る。

(*゚ー゚)「ブーン兄ちゃん、髪もっさもっさだべ? それじゃ女の子にモテねぇべよ?」

( ^ω^)「お? そうかお?」

(*゚ー゚)「んだぁ! 明日オラが切ってやるだよ! かっこよくしてやるべさぁ!」

( ^ω^)「おっおっお。それは楽しみだお」

伸びきった自分の髪と茂る草木を掻き分けながら、何気ない会話に笑って、村へと歩いた。

そして、道半ば。

夕陽に照らされた村の入り口の前に、彼はいた。

 

 

54 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 22:15:06.86 ID: JwxJKOdv0

( A )「……ブーンさ、久しぶりだっぺなぁ」

( ^ω^)「……ドクオかお。久しぶりだお」

日が沈み、東の空が藍色に染まり始めた頃。
村の入り口へと続く道の上に、石ヤリを持ったドクオの姿はあった。

僕にとっては、実に一年ぶりの再会。

懐かしの彼を前に、顔が少しほころんだが、しかし、ドクオの雰囲気が以前とは違う。

 

 

57 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 22:16:09.39 ID: JwxJKOdv0

(*゚ー゚)「ドクオ兄ちゃん! こったらとこでなーにしとるだぁ?」

( ∀ )「しぃかぁ。悪いけんど、ブーンさとちょっち話さあるけぇ、村さけぇってくんねぇか?」

(*゚ー゚)「うん! わかっただ! また遊びにいくべさぁ!」

ドクオは、駆け寄ったしぃちゃんに笑いかけ、村へ帰るよう優しく促す。

愛嬌のある笑顔は、一年前のまま。

素直に言葉に従ったしぃちゃんが村へと姿を消したのを確認したあと、
笑顔を消した彼は、石ヤリを片手に、僕に言った。

 

 

61 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 22:18:01.58 ID: JwxJKOdv0

( A )「……さて、ブーンさ。あめさんはオラの見込んだとんりの人だったべぇ。
  おめは、オラの村にすんばらしい技術さ伝えてくれた。オラァ、おめさんに感謝すてもす足りねぇだぁ」

( ^ω^)「それはお互いさまだお。
僕だって、よそ者の僕を住まわせてくれたこの村には、ものすごく感謝してるお。
     だけど、僕には色々と聞きたいこともあるんだお。もし差し支えなければ、答えてはもらえないかお?」

周囲には茂る木々と、上り始めた満月だけ。
降りはじめた夜の帳の中、僕とドクオは静かに対面する。

しばしの沈黙。

薄暗い世界の中に、ドクオの声が再び響く。

 

 

62 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 22:20:11.88 ID: JwxJKOdv0

( A )「そいはこれから嫌でもわかる。
  村さけぇったら、おめさんは多分、すべての疑問の答えさ得るべ。
  そんでオラも……おめさんのすべてがわかんべ」

( ^ω^)「……どういうことだお?」

無言のまま、ドクオが僕との距離をわずかに詰めた。今の距離は五メートルほどだろうか。

ドクオの雰囲気は、一年前と明らかに違う。
薄暗い森の中でも、彼の巨体からの迫力がひしひしと身に伝わってくる。

こんなことはしたくなかった。

こんなことは絶対にしたくなかったのだけれど、
僕は懐に手を入れ、常備していた銃のセーフティを、実に一年ぶりにはずした。

 

 

66 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 22:23:10.90 ID: JwxJKOdv0

( A )「おめさんが幸福さ村に運びに来たか、それとも破滅さ村に運びに来たか、今日ですべてがわかんべさ」

( ^ω^)「……答えになっていないお。いったいどういう意味だお?」

( A )「今はそれすか、オラには言えねぇ。だども、もしおめさんが間違った答えさ選んだら……」

そう言うとドクオは、手にした石ヤリをおもむろにぶんと振りかざした。

緩急のきいた、迫力に満ちた見事な演舞。空気が切れる音が直に耳へと伝わってくる。
その優雅さは銃を向けるのを忘れるほどで、僕ははからずも、ドクオの舞に魅入ってしまっていた。

そして彼は、振りかざしたヤリの切っ先を僕へと向け、静けさの中に確かさを含んだ声で、こう言った。

( A )「……申し訳ねども、オラ、おめさんを……」

 

 

 

――殺さねばならねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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