5 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:23:37.93 ID: JwxJKOdv0

― 4 ―

村に足を踏み入れた後、僕は村人に好奇の目を注がれながら、ギコとしぃの案内で村長の家へと連れられていた。
部屋の中に漂っていた匂いに、思わず顔をゆがめる。クレオソート油(正露丸などの主成分)の匂いがした。

こういう類の香りが彼らに好まれているのだろうか? 
まあ、匂いの好みは民族でそれぞれだから、ケチはつけられない。

間もなくギコとしぃは退席させられ、その代わりに数人の男衆、
そしてやせ細った老人が、若い男に支えられながら姿を現す。

/ ,' 3「フガフガ。わしが村長の荒巻ですたい。
   ギコとしぃに話は聞きましただ。あいつの家さ泊まっとったらしかですな。
   して、見慣れん風貌じゃが、あんたはどこから来なすった?」

 

 

10 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:25:04.26 ID: JwxJKOdv0

( ^ω^)「ここから東の平原から来ましたお」

/ ,' 3「なんと! 『死んだ大地』から来なすったのか!!」

僕の一言に、周囲の男たちがざわつく。
いずれも僕よりひ弱そうな、ドクオとは比べ物にならないほどにやせ細った男たちばかり。

一応、懐に手を入れて銃のセーフティをはずしておく。しかし彼らが相手なら、何かあってもすぐに逃げ出せそうだ。
それでも一応の警戒を続けながら、僕は静かに村長と向き合う。

/ ,' 3「……なるほど。『死んだ大地』の先にも人はいなすったか。して、あんたの名は?」

( ^ω^)「ブーン、と言いますお」

/ ,' 3「ブ、ブーン!?」

 

 

12 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:27:07.28 ID: JwxJKOdv0

ドクオに使った偽名をそのまま使った。予想通り、また周囲はざわついた。

村長は目を見開いて驚いているし、周りを囲む男衆の中には「この世の終わりだ」と、声を漏らすものさえいた。
ドクオも、あの時驚いていた。適当に選んだ「ブーン」という名前には、なにか特別な意味が含まれているのかもしれない。

周囲の喧騒を眺めていた僕に向け、村長が場をとりなすようにひとつ咳払いをし、緊張した面持ちで続ける。

/ ,' 3「いやはや、すまんこって。取り乱したことを詫びさせてもらいますですたい」

( ^ω^)「いえいえ、お気になさらずにだお」

/ ,' 3「して、その……ブ、ブーン殿は、なしてこの村さ訪れたのですだ?」

( ^ω^)「……この村に、技術を伝えに」

 

 

13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:29:02.65 ID: JwxJKOdv0

ドクオの際の失敗をいかし、あらかじめ考えておいた理由を述べた。考えてみればこれは真実なのだ。
僕は、千年前からの技術を『今』に伝える贈り物。村長に向けて発した言葉に、嘘偽りは全く存在しない。

それなのに、なぜドクオとの会話の際、僕はこの理由を真っ先に思い浮かべなかったのだろうか?
無意識中の無意識が発したそのときの言葉の理由を、僕は当分後になってから気づくことになる。

/ ,' 3「なんと! それは素晴らしい!」

一方で村長はというと、僕の言葉を手放しに信じて喜んでいた。
周りの男衆からも安堵のため息が漏れている。

なぜなのだろう? 理由はまだわからない。

 

 

15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:31:07.23 ID: JwxJKOdv0

/ ,' 3「して、滞在期間はどのくらいですかの?」

( ^ω^)「とりあえず、冬の間はいさせてもらうつもりですお」

/ ,' 3「ではそのように手配させてもらいますだ」

話は予想に反してスムーズに進んだ。まさか、ここまであっさりと滞在が許されるとは思わなかった。

/ ,' 3「宿はしぃかギコの家がよかですかのぅ?」

( ^ω^)「はい。出来ればしぃちゃんの家にしていただけるとありがたいですお」

この言い回しから察するに、どうやらギコとしぃは兄弟ではないらしい。どうでもいいことだが。
僕はまっさきにしぃちゃんの家を所望した。ギコの家を選んだとしたら、あそこがいくつあっても足りはしない。

 

 

16 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:33:13.78 ID: JwxJKOdv0

/ ,' 3「では、そのように手配させてもらうだ。歓迎の宴は明日にでも行わせていただくべ。
   お疲れでしょうけぇ、今日のところは別のところでお休みくだせぇだ」

と言って、村長は早々に会合を打ち切ってしまった。
正直、言い伝えや伝承、あるのならば神話の類も聞いておきたかったのだが、いかんせん場がそういう雰囲気ではなかった。

しかし、冬の間はこの村にいれるのだ。いつだって話は聞ける。村人たちも一応は歓迎してくれている。

僕は懐の銃のセーフティを戻すと――もちろん、何かあったときのために銃の携行は怠れないが――
案内の男に従って、村長の家を後にした。

 

 

17 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:36:13.22 ID: JwxJKOdv0

その夜は警戒するあまり、一睡もすることが出来なかった。しかし、それは杞憂に終わる。
村人は僕を襲うことはおろか、近づこうともしなかったからだ。

翌日、村全体で僕の歓迎パーティを行ってくれた。従者に支えられた村長が壇上で声を上げる。

/ ,' 3「ブーン殿の来訪に乾杯だべ!」

しかし、歓待の言葉とは裏腹に、大人たちはみな一様に作ったような笑いを浮かべ、恐る恐る僕に対応していた。
旅人の僕がよほど珍しいのだろうか? それとも、何か含むところがあるのだろうか?

一方で、子供の方はというと、しぃちゃんやギコに触発されたらしく、無警戒に僕にちょっかいを出して遊んでいた。

僕に殴る蹴るなどの暴行を加える子供たち。
しかし大人の方はというと、真っ青になってわが子をとがめにはやってくるのだが、
ギコ以外の攻撃は痛くも痒くもなかったので、「いいんですお」とひと声をかければ、
彼らはうやうやしく礼をしてそそくさと立ち去っていくばかり。

それと宴会の間、ドクオの姿を見ることは一度もなかった。

 

 

18 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:37:42.79 ID: JwxJKOdv0

宴会の翌日から、僕は行動を開始した。
僕は贈り物。ならばそれをちゃんと形に表さねばならない。

荷物の中からひとつの書物を紐解く。農学、建築関連の技術を記した学術書。
ありがたいことにそこには、低度の文明にもすぐにいかせそうな技術が列挙されていた。

/ ,' 3「水がいつでも汲めるとな!? そげな技術があるとですか!?」

( ^ω^)「はいですお。そのために人をお借りしたいんですけど……」

/ ,' 3「お安い御用ですだ。幸い、冬で人ではあまっとるんです。村の若い衆を総動員させるだぁ」

村長に協力を頼んでまず取り組んだのは、井戸を掘ること。
この村に井戸は無く、水はしばらく歩いた小川から調達されていた。

書物の理論をすぐにものにした僕は、大人たちを先導して井戸掘りの準備を始める。

 

 

20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:40:53.21 ID: JwxJKOdv0

実践することにしたのは、「上総掘り」と呼ばれる東洋の古い技術。
千年前の世界で、途上国など機械の無い地域での井戸掘りに使われていたもの。
木で水車にも似たやぐらを組むだけ。原子的な技術しかないこの村にはうってつけの方法だ。

しかし、問題は早々に起こる。僕の説明を聞くや否や、集められた村人たちが猛反対を始めたのだ。

「木を無駄に使ってはいけない」「貴重な木を使ってまですることなのか?」「本当に水は出てくるのか?」

次々と発せられる反対の意見。論点は主に「木の重要性」と「井戸の価値」であった。
ドクオの言っていたとおり、この村では木は相当に珍重されているらしい。
そんな木を使ってまで見合う有用性がはたして井戸にあるのかどうか、ということが、村人の一番の懸念事項であった。

( ^ω^)(この人たち、ちゃんとご飯食べてるのかお?)

もっとも僕は、それらの意見よりも、集められた村人の異常に細い体つきに興味を寄せていたのだが。

 

 

21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:42:05.18 ID: JwxJKOdv0

僕がそんなことを考えている間にも、間髪入れず村人たちは反対してくる。

体の細い彼らが何を言おうと、いまいち迫力に欠けているのだが、
さすがに反対意見ばかり出されると、僕も井戸掘りを強行するわけにはいかず、ほとほと困り果てていた。

騒然とする場を一時解散させた僕は、村長のもとを訪ね、井戸の利点について一から説明した。
当然、村長も村人たちと同じ反対意見を僕にぶつけてくる。

( ^ω^)「井戸を掘ればこんなに特典がついてくるんですお。今なら送料も僕が負担しますお」

/ ,' 3「安ーい! 買った!」

上記の会話はもちろんフィクションである。
しかし、反対意見すべてに詳細な説明を述べれば、村長も納得してくれ、必要な分に限り木の伐採を許可してくれた。

こうして冬半ば、ようやく僕は井戸掘りに着手することとなった。

 

 

22 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:44:02.27 ID: JwxJKOdv0

/ ,' 3「さあ、お主たち! ブーン殿の言うことさ聞いてしっかり動くべさ!」

流石は村長も一族のリーダーである。
一度は僕に反対した彼だが、結論を出した以上は全幅の信頼を寄せてくれた。

村人たちも村長に従い僕を信じた。少なくとも、信じようとはしてくれていた。
大切にしている木々を、彼ら自身が伐採した事が、なによりの証明だ。

そのおかげか、作業は思ったより早く進んだ事柄が半分、余計に時間がかかった事柄が半分であり、
総じて見れば、予定通り――とはいかず、結構な遅れをきたした。

 

 

23 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:45:13.50 ID: JwxJKOdv0

たとえば木々の加工。この点に関して、彼らは僕の予想をはるかに上回る技術を持っていた。

木を珍重している彼らに、どうしてそんな技術があったのか? 
それは、石の加工技術の転用による賜物だった。

もっとも、木材と石材では性質も加工技術も異なるのであるが、木よりはるかに固い石を切り刻んでしまう彼らにとって、
単純に木を切って加工するくらいのことなら、お茶の子さいさいだったのである。

また、上総式井戸掘りの要となる部分に「ホリテッカン」と呼ばれる採掘部分がある。

この部分は強度の都合上、どうしても鉄で無ければならなかったのだが、あいにくこの村には鉄が無かった。
初歩的であり、なおかつ致命的なミス。僕は大いに悩んだ。

( ^ω^)「どうしたもんかお……」

そんなとき、村の石職人が石を加工し、鉄にも勝るとも劣らない強度の採掘部分を造ってくれた。

元来、この地方では良質な石が採れるらしいこともさることながら、
なおかつ、それほどにこの村の石材加工技術は発達しており、だからこそ作業もはかどるはずだと、僕は思っていた。

 

 

26 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:47:25.61 ID: JwxJKOdv0

しかし、である。細かい手先の作業は大いにはかどったのだが、
いざ、資材運び、やぐら組みといった力仕事になると、工程は大幅な遅れをきたした。

理由はいたって明快、大人達の体が異常に華奢過ぎるのだ。

あばら骨が浮き出た胸。少し力を入れただけでも折れそうな細い足。ドクオはもとより、僕よりも細い彼らの体躯。
か細い腕に力など無く、物一つ運ぶ作業でさえ数人を必要としていれば、当然、工程は遅れていく。

こんな時、最大の戦力と想定していたドクオはというと、作業を手伝うどころか、いっさい僕の前に姿を現さなかった。
僕にとってこれは大きな誤算であり、大きな疑問でもあった。さらに、だ。

( ^ω^)「予定より大幅に工程が遅れているお。今夜はできる限り遅くまで作業をしたいんだけど……」

しかし、村人たちは僕に対して申し訳なさそうに一礼すると、みな井戸掘り現場から離れどこかへ消えてしまう。
それだけじゃない。たとえ作業が休みの日でも、村の大人たちは夕方になると皆、どこかに消えてしまうのだ。

雨の日も風の日も雪の日も、夕闇にけぶる村に子どもたちと僕を残し、大人たちは一時の間、完全に村から姿を消す。

この村独自の風習なのだろうか? 
残念ながら内藤ホライゾンの知識に文化人類学の類は豊富でなく、このときの僕には、彼らの行動の意味がよくわからなかった。

 

 

27 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:49:43.22 ID: JwxJKOdv0

実際問題、ことさらこの風習について気にかける必要は、僕には無かった。

井戸の完成などいつでもよく、夕方以降に彼らが作業に参加しなくても、僕になんら困ることは無い。
作業が遅れるだけの話。計画が予定通りに進まないのにはもちろんいい気はしなかったが、結局はその程度のことだ。
それによそ者である僕が、夕方大人たちが村から消えるという彼らの風習に口を出すのは、お門違いも甚だしい。

だが、しかし。

(;*゚听)「はぁ……はぁ……」

( ^ω^)「……しぃちゃん、大丈夫かお?」

ある日、同居させてもらっていたしぃちゃんが風邪をひいた。
顔を真っ赤にし、布団の中で苦しそうにうめいていた。

千年前の文明ならば、風邪程度でさして心配などしない。しかし、「今」は一度滅びた、千年後の世界だ。
医療技術は原始的以外の何物でもなく、風邪程度の病気でも、子どもならば死に直結しかねない。
それにもかかわらず、彼女の両親は夕方、村から消えた。風邪に苦しむしぃちゃんを残して。

 

 

30 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:51:42.62 ID: JwxJKOdv0

よそ者として、村人と一定の距離を保ちながら日々を過ごすうちに、冬は過ぎ去り、うららかな春が訪れた。
この頃になってようやく一基の井戸が掘りあがり、その底に艶やかな水が溜まる。

/ ,' 3「これは素晴らしい! みなの衆、ブーン殿に感謝じゃ!」

( ^ω^)「おっおっお。照れるお」

その晩、井戸の水をメインディッシュに、村をあげた盛大な宴が催された。
これまでどこかよそよそしかった村人たちが、まるで別人のような馴れ馴れしさで、次々と僕の杯に井戸水を注いでくる。

(*゚ー゚)「おいしいべぇ! こん水、ブーン兄ちゃんが出してくれたんだべ? すごいべ!」

(,,゚Д゚)「ふん! なかなかやるじゃねぇかゴルァ!」

僕の膝の上で、幸せそうな顔をして水をすするしぃちゃん。
可愛くない言葉とは裏腹に、旨そうに水をがぶ飲みするギコ。
村人たちもみな、喜々とした表情で夜の中を踊っていた。

( ^ω^)「おっおっお。この世界も悪くないお」

眼前に広がる微笑ましい光景。ふと漏れた一言。これでドクオさえいてくれれば完璧だった。
しかし、それを差し引いたとしても、十分に素晴らしい時間。

僕は人生の中で最も幸せなひと時のうちのひとつを、透きとおる井戸水の冷たさとともに飲み干した。

 

 

32 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:53:53.61 ID: JwxJKOdv0

( ^ω^)「さて、と……。荷物になりそうだし、何冊かの本はここに置いていくかお」

宴は終わり、その後少しの日を置いて、僕は荷造りを始めていた。滞在期限である春が訪れていたためだ。
それを聞きつけたらしい村長が、村人たちを引き連れ、神妙な面持ちで僕のもとを訪れて、言ってくれた。

/ ,' 3「ブーン殿さえよろしければ、その……もう少し、この村さとどまってはくださらんじゃろうか?」

( ^ω^)「別にかまわないお。むしろそう言ってもらえてうれしいお」

正直、その一言を僕は期待していた。
苦労して掘った井戸の中の水のように、この村に対する愛着は湧き始めていたし、

(*゚ー゚)「やったべぇ! またブーン兄ちゃんと一緒に遊べるだぁ!」

何より、しぃちゃんのこの笑顔を見られなくなることが、僕にとっては何よりも名残惜しいものだったから。

 

 

34 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:55:22.03 ID: JwxJKOdv0

それから再び村に留まることにした僕は、彼らに石橋の架け方を教えることにした。
木を無駄に伐採してはいけないという伝承のあるこの村には、井戸以上にこれが喜ばれた気がする。

/ ,' 3「木は我らの守人ですじゃ。むやみに傷つけてはならんのですたい」

この村に来て、もはや耳にタコができるほど聞かされた言葉。
井戸の完成や、旅立ちを引き伸ばされて以来、村人との距離が縮まっていた僕は、思い切って村長に尋ねてみた。

( ^ω^)「なるほどですお。ほかにも何か言い伝えや神話などはあるんですかお? あったら聞かせて欲しいお」

/ ,' 3「ほかならんブーン殿の頼みじゃ。よろこんで教えますだ。
そうじゃのぅ……そったら、この村の神様んことをお話ししますだ」

問いかけた村長は、気を悪くするどころかむしろ嬉しそうな素振りを見せ、
相変わらず痩せこけた体を床へ横たわらせ、饒舌に神話や伝承の類を語ってくれた。

 

 

36 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:57:08.59 ID: JwxJKOdv0

/ ,' 3「そん昔、人間は自分を自然の一部だということ忘れ、自然を侵すなど好き勝手やらかしておりましただぁ。
   そんせいで、世界は終幕さ追い込まれました。そこで怒ったわしらの神が、空を閉ざしてしまいましただ。
   お天道様さ失った人間たちは、次々と死んでいきましたぁ。だども同時に、自然もまた、消えていきましたぁ。
   これはいかんと思った神様は、人間だけに裁きの雷を下すことにしましただ」

「神が空を閉ざした」というのは核の冬で、「裁きの雷」とは当時使用されていた兵器の総称だろう。
なるほど。村長から語られる神話は、確かに事実に即している。

一部、「空が閉ざされたあと雷が落ちた」など、事実と異なる点もあるのだが、往々にして神話とはそういうものだろう。

特に疑問には思わなかった。それよりも、どうやって人間が核の冬を生き延びたかが気になる。

 

 

37 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 21:59:13.43 ID: JwxJKOdv0

/ ,' 3「特にブーン殿がいらした『死んだ大地』方面が、集中的に裁きにあいましただぁ。
  結果、『死んだ大地』より西には、今も人はおらんとされとりますだ。
ブーン殿がこられてわしらが驚いたのは、そういうことですじゃ。
  そんで、ついにわしらの先祖にも、神の雷は落とされましただ。わしらの先祖はもうダメだと思ったそうじゃ」

( ^ω^)「それで……どうなったんですかお?」

/ ,' 3「うんむ。それがの、落ちた雷は先祖になんら危害をくわえんかったのじゃ。
  そん代わり、雷はわしらさ見守る木となって、この近くさ留まってくださいましたぁ。
つまり、わしらの一族は神に許されたのですだ」

/ ,' 3「そん証拠に、こん近くの空だけは開放されてのぅ。お天道様がまた姿さ現してくれたそうなぁ。
  それから改心したわしらの先祖は、自然を敬い、裁きの雷を『神の木』として崇め奉り、
神の許しへの感謝を忘れんため、『神の木』の周辺に祠を建てることにしたんですじゃ。
  そんで今も、わしらは神の祠に供え物をしたりしとるわけですじゃ。これが神に対するわしらの伝承ですだ」

 

 

38 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 22:01:07.57 ID: JwxJKOdv0

( ^ω^)「……ふむ」

いくつか腑に落ちない点がある。

たとえば、空が晴れたこと。核の冬がここだけ早く終わったということなのだろうか? 
はっきりとはしないが、伝承を聞く限り、おそらくそうなのだろう。

それと、彼の言う神の木と神の祠。

この時点で僕は長いこと村に滞在していたが、そんなもの一度も見たことがないし、話も聞いたことがなかった。
よそ者には見せられないということなのだろうか?

/ ,' 3「さて、日も暮れてきましたじゃ。
わしはちょっと行くところさあるけぇ、ブーン殿はしぃの家さけぇって下せぇじゃ」

( ^ω^)「お。興味深い話をありがとうございましたお」

時刻は夕方。この村の大人たちは相変わらず、この時間に村から姿を消す。
多分、神の祠とやらに出かけているのだろう。村長も例に漏れず、従者に背負われ、僕の前から姿を消した。

結局、その日は疑問の答えを聞くことは出来なかった。
その後、石橋架けなどの作業が佳境を迎えて忙しくなった僕に、続きを聞く機会はついぞ訪れてはくれなかった。

 

 

 

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