1 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/12/02(日) 23:38:54 ID: 93v73WVf0

第四部 奉られた遺物と、神殺しに挑んだ男の話

― 1 ―

青空の下。流れる雲を見上げながら、僕は河に沿って赤土の平地を歩いていた。
旅に慣れ始めた体。進む足取りは軽く、僕は千年後の世界をのんびり眺めながら西を目指しさすらいを続ける。

今歩いているのはかつての北米大陸の中心部。
グレートプレーンズと呼ばれていた大穀倉地帯は赤土の下に沈み、今は乾いた平原に姿を変えている。
おそらくは、ユーラシアから放たれた核ミサイルがこの近辺で幾度となく迎撃され、
この地方に壊滅的な打撃を与えたのだろう。そして放射能汚染は当面の間続き、今の殺風景な姿を作り上げた。

すでに意識としては消えてしまっていた内藤ホライゾンの記憶を辿りながら、僕はそんなことを考えたりもした。

 

 

 

2 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/12/02(日) 23:40:19 ID: 93v73WVf0

西へ。

記憶とともに河の流れをさかのぼりながら、水源であろうかつてのロッキー山脈へと僕は進んでいる。
その間に太陽と月は何度も空を行き交い、旅のお供の雲と別れては出会いを僕は何度も繰り返した。
しかし道中ではわずかな虫と鳥以外、人はおろか、動物とさえも一度も出会うことはなかった。

けれど不思議と孤独は感じなかった。
内藤ホライゾンの意識と道連れにそういった感覚が欠落してしまったのか、
はたまた太陽や月、雲や風を友達と思えるほどに今の僕の意識が達観しているのか。
わかったところで何の得も無い。

考えることをやめた僕は、真っ直ぐに続く赤い地平線を眺めながら、河岸を上流へひたすらに上っていった。

 

 

 

5 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/12/02(日) 23:42:19 ID: 93v73WVf0

( ^ω^)「おお。これはすごいお」

歩き始めておよそ二ヶ月。
季節は晩秋から初冬へと移ろっていた。歩き続けた僕は、いつしか緑色の草原地帯を前にしていた。

グレートプレーンズのさらに西、
ロッキー山脈の東手前あたりに存在したプレーリーと呼ばれた大草原地帯の近辺だろうか?
いずれにしてもそこには虫や鳥たちが飛び交っており、これまで歩いてきた大地よりはるかに生き生きとしていた。

( ^ω^)「この分だと、人に会えそうだお」

期待を胸にすれば足取りはさらに軽くなり、
揚々と歩き続けた僕の目の前にはいつしか屹立と連なる山脈の岩肌が現れていた。
登り始めた斜面にはまばらながら木々の並びが存在しており、人が住めそうな雰囲気が十分とはいかないまでも漂っていた。

そしていよいよ人と出会えるのかと周囲を見渡したそのとき、僕は遠くの草むらがガサリと音を立てるのを耳にする。

 

 

8 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/12/02(日) 23:44:20 ID: 93v73WVf0

( ^ω^)「……何かお?」

立ち止まり呟いた僕。その声に反応したかのように草陰から三つの影が姿を現す。

草木になじむような茶色い色をした、イヌ科らしき三匹の生き物。
コヨーテに近そうではあるが種別はハッキリとはしない。どちらにしても、この三匹の目的はただひとつだろう。

( ^ω^)「やれやれ。この世界ではじめて会った動物に、僕は食べられちゃうのかお?」

けれどどう猛そうな三匹を前にしても、僕はまったく恐怖を感じない。旅のさなか感じなかった孤独と同じように。
やっぱり今の僕には何かが欠落しているようだ。それで困ったことはないから別に構いはしないけど。

立ち止まった僕に向け、三匹がじりじりと距離を詰めてくる。
僕は懐に手をいれて、潜めていた銃のセーフティーを外す。

グッと、三匹が体を屈めた。彼らの目がギラリと輝いたのが見えた。
「来るか」と銃を彼らに向けようとした直前、僕の背後から人の声が響いた。

 

 

11 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/12/02(日) 23:46:43 ID: 93v73WVf0

「上さ走るっぺ!」

久しぶりに聞いた人語。なまりは強いが英語に間違いはなかった。
僕はその声に従い山の斜面を駆け上り始める。

続けて、低いうなり声を上げて僕へと走り出した三匹。
さすがに速い。すぐに追いつかれるだろう。

後ろを振り返りながら、再び懐に手を入れて銃を取り出そうとした。
こんなところで食べられるわけにはいかない。

そのとき「キャン」と甲高い悲鳴を上げて、三匹が動きを止めた。
六つの瞳は僕から外され、斜面の下の方へと移動している。

( ^ω^)「おお、人だお」

三匹と同じ方へ視線を動かせば、そこには赤黄青と色彩の強い原色の衣服に身を包んだ一人の男が立っていた。

 

 

15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/12/02(日) 23:48:54 ID: 93v73WVf0

(#'A`)「ふんもっふ!!」

彼はこもった掛け声を上げると、両手に握ったコブシ大の石をヒュっと音が聞こえそうなほどの勢いで三匹へと何度も放る。
三匹は飛びのいて何発かのそれを交わした後、どこかの国の慣用句どおりに尻尾を巻いて、草木の影へと姿を消していった。

('A`)「やんれやれ、危なかったべさぁ。こん時期はコヨテどもが腹をすかせとるからなぁ。
   んで、おめさん、こったらところで何しとっただぁ?」

コヨテとはコヨーテのことだろうか? 多分そうなのだろう。

三匹の退散を見届けた後、原色の服に身を包んだ男はひどいなまり声で話しかけてきながら、
僕の方へひょいひょいと駆け上がってくる。

( ^ω^)「お。危ないところを助けてくれてどうもありがとうだお」

('A`;)「おんやまぁ! おめさん変なしゃべりかたすんなー? 服も変なもん着とるし、この辺のもんじゃなかべさな?」

 

 

 

16 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/12/02(日) 23:51:04 ID: 93v73WVf0

僕の前に立った男は非常に背が高く、縦にひょろ長かった。百九十センチ近くはあるだろうか。
一見すると細身に感じられるが、よくよく見ると筋肉で体が締まっているだけのようだ。

僕にしてみれば彼の衣服や話し方のほうが変だったが、とりあえずここは空気を読んで話を合わせる。

( ^ω^)「そうなんですお。あっちの方から来ましたお」

('A`;)「あっち? あっちっておめさん……『死んだ大地』から歩いて来ただか!? どっひゃ〜!」

僕が東、歩いてきた平原の方を指差すと、男は大げさなアクションを見せて愉快な声を上げた。
どうやら僕が歩いてきた東の大地を、彼の中では『死んだ大地』と呼ぶらしい。

それから少し後ずさりして身構えると、彼は恐る恐る尋ねてくる。

('A`;)「とゆことは何か? おめさんまさか……神さんの使いだかぁ!?」

 

 

 

21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/12/02(日) 23:53:04 ID: 93v73WVf0

('A`;)「ふぅ〜むぅ〜? どんれどれ〜?」

神の使いだなんて言われて思わず苦笑した。むしろ僕は神の使いからは程遠い存在だろう。
愉快な声を上げる男はまじまじと僕を見つめると、警戒の構えをとき、一息ついて拍子抜けしたかのように脱力する。

('A`;)「たすかにおめさん、オラと同じ人間みたいだなぁ〜。それになんだか弱そんだし〜」

( ^ω^)「お。そうなんですお」

そりゃあ、あなたからしてみれば誰だって弱そうに感じられるでしょう。
もちろん僕はそんなことなどおくびにも出さない。

ただひたすら友好的にニコニコと笑うだけ。
もともと僕の顔の造りはにやけているし、これなら間違っても悪人には見えまい。

('A`)「なるほどなぁ〜。そんでおめさん、死んだ大地から何しに来ただかぁ?」

( ^ω^)「えーっと……旅ですお。ずっと河沿いに西を目指して、僕は旅をしてきたんですお」

うん。嘘はついてない。
僕は東の大地から西を目指して歩いてきた。それは紛れもない事実だ。

僕が勝手に納得していると、男は垂れた細目を精一杯に見開いて、驚いた表情で僕を見る。

 

 

 

25 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/12/02(日) 23:55:01 ID: 93v73WVf0

(゚A゚)「そっかぁ! おめさん旅人さんかぁ! 大変だったなぁ! ご苦労なこってなぁ!」

( ^ω^)「お。でも僕には旅しかすることはないし、別に大変だとは思わなかったお」

('A`)「んにゃんにゃ。強がらなくていいだぁ。旅するだなんてぇ、おめさんにも色々あったんだろうなぁ」

今度は彼がなにやら勝手に納得しだした。その目にはある種の親近感にも似た色が宿っている。
それから男は考えるようにあご下を指で支えると、ポンと自分の太ももを一つ叩き、ニカッと素朴な笑みを浮かべて言った。

('∀`)「よっしゃ! どんだ? オラの家さ来ねぇべか? 汚ぇとこだども、外で寝るよりはマシだべさぁ!」

( ^ω^)「お? いいんですかお?」

('∀`)「構わね構わね! 旅人さんは丁重にもてなさねば罰が当たるべさぁ!
   そん代わり面白い話、オラに色々聞かせてくれだよ? ほーれ、行くべさ!」

名前も知らない純朴そうな男は、得体の知れない僕の手を引くと、山の斜面を慣れた足取りで登っていった。

 

 

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