3 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:04:16.21 ID: bWvL1Rc90
 黒い煤を肌に、アスファルトを筋肉に、鉄筋を骨格にして作られた全長5メートルほどの人形。
 容貌はRPGに出てくるゴーレムのようにも思える。
 東京のど真ん中、それも爆破テロの直後に随分とファンタジーな存在が現れたものだ。

 その時間稼ぎとして作られたであろうゴーレムは、盾と槍とを構える僕を睥睨し、ゆっくりとその腕を振り上げる。
 魔法により強化された戦闘思考が、頭を割らんばかりの警鐘を鳴らした。

( ^ω^)「………。フウッ! ハアアァッ!」

 右に飛び跳ね、手に持つ盾で巨岩で構成された拳をいなす。
 素早く槍を逆手に持ち変え、着地と同時頭と思しき部位へ投擲した。
 しかし、刃は彼を構成する頑健な素材に阻まれ、それを確認する間もなく、繰り出される左ストレート。

(  ω )「グッ! ……カッハッ」

 辛うじて防いだ盾もろとも、僕の体は数メートルの距離を転げ回った。
 衝撃は肺胞の隅まで酸素を奪いとり、指先は震え、世界はチカチカと回転を始める。
 砕けた盾を見つめながら、この化け物との戦い方をただ冷静に考えていた。

( ^ω^)SIDE・5+(,,゚Д゚)SIDE・3

 それでも胸の奥の深い部分は、相手への怒りを忘れてはいない。

(# ω )「ぶち殺すッ! 絶対にっ!」

 

6 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:06:43.73 ID: bWvL1Rc90
 視界は暗く、全身に痛みと重さがのしかかって、オレが瓦礫に閉じ込められたことを教える。
 腕の中のか弱い温もりは、微かな震えで、まだ息があるとそう伝えてくれた。
 僕らを覆うそれらを吹き飛ばし立ち上がると、結構な範囲が焼けてしまった街並みが見える。

(*゚ー゚)「猫さん、平気?」

(,,゚Д゚)「怪我一つねぇ。……が、ちっと厄介だな」

 小学生に心配されずとも、オレの体には小さな怪我一つない。
 しかし、火炎と落下から身を守ってくれた魔法は、オレの体力を大きく削いでいた。
 全身が溶鉱炉に投げ込まれたように熱く、そして細かく震えている。

(,,゚Д゚)「……互いに大変だろう? だからよ、見逃してくれねーか?」

 幾ら体力を消費しようともしばらく休憩すれば、充分回復するだろう。

ξ゚听)ξ「ふん、残念だけど断るわ」

 問題は俺の視線の先、戦闘体制をとるレベル23の姉妹だ。
 コチラの和解発言に、妹と思しき少女は淡く輝き、姉の背中で翼となる。

――脚力を"高める"

 しぃを抱え、素早く飛び跳ねる。
 咄嗟の勘は的中し、さきほどまで立っていた地点は、剣山のように鉄筋が飛び出していた。
 さあて、どうするか?

 

11 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:09:39.57 ID: bWvL1Rc90
 跳ね起きると同時、先ほどまで僕が倒れていた地面を岩石の拳が穿つ。
 抉られた地面は、四方につぶてを撒き散らし、背中にいくつもの裂傷を作った。
 続く左の拳を右にステップして回避、瞬間、烈風のような薙ぎ払いが右腕を巻き込んだ。

――バックラーを"作り出す"

(  ω )「グッう! ぅうぅううっ!」

 間一髪作り出したバックラー越しの衝撃から、意味のない声が口からこぼれた。
 視界がむちゃくちゃに乱れ旋回し、乱雑な衝撃が肩、肘、背中、と様々な部位を襲った。
 僕はまるでピンボールのように二度三度瓦礫の山を跳ね回り、それでも何とか意識を繋ぎ留める。

(  ω )(逃げろ!)

 闘争本能が回避を奨励。
 その本能に従って、痛みを無視して出鱈目な方向へと跳ねる。
 辛うじて避けた衝撃は、隕石のように地面に大きなクレーターを作っていた。 

――全身を隠すほど大きな楯と戦うための斧を"作り出す"

 武具を構え、楯を隔てて岩の化け物と対峙する。
 荒い息を整えながら、化け物の動きを一ミリとも逃さぬよう、瞬きもせずに睨む。
 構えた姿勢から一歩よろめくと、右の脚が酷い痛みと共にあらぬ方向へ曲がった。

――右脛骨と右腓骨を補強する金属ボルトとワイヤーを"作り出す"

( ;^ω^)「さあ、こいお。化け物がッ!」

 

13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: >>10痛烈なミス 投稿日: 2008/04/14(月) 00:12:43.58 ID: bWvL1Rc90
 鋭い正拳突きを軽く仰け反り、皮一枚で回避。
 続く豪快な下段蹴りを楯を当てつつ右に跳ね、踵落としを懐に潜り避ける。

( ;゚ω゚)「もらったっ!」

 接近した軸足を斧で打ち払い、次の攻撃が来る前にひたすらに前進、素早く距離をとった。
 手に残る鈍い痺れが、先ほどの攻撃が無意味であった事を告げる。
 振り返り、同時、左へ続いて右へ、岩人形の乱撃を何とかかわした。

 人形は無言で僕へ、重たくも素早い攻撃を繰り返し、それらをなんとか凌ぐ。
 瓦礫で構成されているからであろうか? 彼は声を出すことも疲れも知らないようだ。

( ; ω )「ハァ……ハァ……(こいつは……まずいお)」

 奴の打撃の威力が高いだけならまだいい。
 握り拳が地面に激突する度、飛礫が襲いかかり、僕はそれを楯で耐える以外の方法を知らない。
 ただでさえ魔法に奪われる体力は、激しい回避運動とジワジワと襲い来る瓦礫の粒に蝕まれていた。
 この戦いが長く持つとは、到底思えない。

( ;゚ω )「(……今だっ!)」

 さりとて、手に持つ分厚い斧の一撃は、アスファルトをわずかに削るばかりで、有効打とはなりえなかった。
 残るのは多大な疲労と、打ち据えた時の掌への衝撃、そして、無数のかすり傷だけである。

 

15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:15:14.50 ID: bWvL1Rc90
 拳だけで数百kgはありそうなその一撃は、直撃すれば即死であろう。
 なんとか楯越しに受け流すのが精一杯で、真っ向から受け止めようものなら、無様に跳ね飛ばされてしまう。
 一撃一撃がまるで大型トラックの体当たり、そのもののようなものだった。

 その上、一振りすれば多大に刃こぼれし、使い物にならない武器は常に使い捨てとなる。
 武器を"作り出す"代償も、僕の体力を大きく削る要因だ。
 僕の戦いのスタイルに、大量消費は割に合わないらしい。

( ; ω )「(……来るおッ!)」

 本能が命ずる回避行動。
 命を賭けたそれに従い、楯を斧を大剣を使って質量の突撃を払い、左右へ跳ねてなんとかかわす。
 次々と繰り出される攻撃の間隙を縫って攻め寄り、斧で大剣でハンマーで一撃を加える。
 だがそれは、毛ほどのダメージを与えず、また距離をとっては恐ろしい連撃に晒される。

 さあ、またくるぞっ!

 右、左、右、右、前、右、左前、止まって、バック、左、右、前、しゃがんで後ろ、前、駆け寄って右、左、前、今っ!

 何とか叩きつけた斧の一閃は、しかし、小指を切り落とすことも出来なかった。
 歯噛みするその瞬間、目の前に何かが写る。
 そしてそれは僕の体の中心、ど真ん中に直撃した。

 

17 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:19:10.49 ID: bWvL1Rc90
 全身を地面と瓦礫とに叩きつけ、幾度も跳ね回り、体が紅い鉄骨に叩きつけられ動きを止める。
 頭の頂点辺りから血が吹き出して、ドロリと右目を覆った。
 それでも立ち上がり、離れてしまった彼奴との距離を眺めて、ゆっくりと思考する。

 いくばか攻撃を繰り返し、そのことごとくが無意味に終わった。
 全身を石材と金属に包まれ、どんな原理で生きているかも、そもそも生物であるかも不明。
 生物であれば弱点であろう脳や心臓も、存在すら疑わしい。

( ↑ω^)「ふぅ……」

 人間の膂力での斬撃・打撃は無意味。どうやら回復能力もつ模様で小さな傷は修復が始まっている。
 動きは俊敏。馬力は計り知れず、攻撃は防げるものではない。知性も意外と高い。
 行動パターンから先読み攻撃と、あの巨体であるというのに隙を見せないような体捌きを見せてくれた。

 こちらは魔法を繰り返し、体力を大きく削られてしまった。
 幾度となく拳を受けかわそうとも、砕けた瓦礫のつぶてを喰らい続けている。
 全身から血が滲んで骨は軋み、クーさんの補強がなくては、とっくに命を落としていただろう。

 学ランもズボンもシャツも、泥と煤と正体の分からない汚れに染まり、破け裂けズタボロだった。
 左手は上手く動かない、折れている右足も言うに及ばず。
 背中を動かせばギシギシ嫌な音を立てて、様々な筋肉が時折引きつるように震える。
 満身創痍とは、きっとこの有様を指すのだろう

 

20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:22:13.04 ID: bWvL1Rc90
 さて、この化け物には、どんな攻撃が有効なのだろうか?
 有効な手立てなど浮かばない、逃げるべきだ。/絶対に弱点はあるはず、諦めるな。

構成素材は、アスファルトを主とした、石材、鉄骨、その他無機物。
素材同士が複雑に絡み合い、複合装甲のようなものを形成し補強している模様。
全身を包むアスファルトの上からの斬撃は有効とは言い難い。

 そもそも有効な攻撃は、今の僕が繰り出すことが出来る攻撃なのだろうか?
 ここで無理に戦えば、僕は死んでしまうかもしれない。/ここで戦わなければ、周辺の人たちが死んでしまうかもしれない。

頭部中央に赤い瞳のような物を確認、無機物等の構成素材で、全身を包む生命体である可能性を示唆。
疲労等、生物的な要素が見受けられず、生命体ではなく機械である可能性もあり。
いずれにせよ、放置すると被害が出ることは間違いないと推測。

 この生物を無力化することが可能であるのか?
 動作原理も不明なのだ、破壊できる確証などない。/どんなものであれ、いつかは必ず壊れる。

補強された程度での武器攻撃による破壊は、絶望的。
内部への直接攻撃、或いは火器を用いた強力かつ広範囲の破壊攻撃で無力化可能であると推測。
しかし、携帯火器、爆薬、及び火砲の類に関する知識は皆無である。

 この化け物に僕は勝利を収めることができるのだろうか?
 絶対に無理だ。/絶対に出来る。

 わからない

 

22 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:25:31.89 ID: bWvL1Rc90
 頭が痛くて吐き気が込み上げる。なんで僕はこんな化け物と、殺し合っているんだろう?
 戦車の砲撃を受けても立ち向かってきそうな、そんな巨体。人間が勝てるわけないじゃないか。
 彼と僕だけの世界に思えるほど集中していた気力が、わずかに途切れ、周囲の様子が目に入る。

 そこには、遠く傷つき倒れ助けを求める一般人の姿があった。
 彼らはゴーレムを見てそして、恐怖の声を挙げた。
 僕のような魔法が使えてようと畏怖する存在、それを見た普通の人間は何を思うだろうか?

 自らの眼と頭を疑うか、あるいはもっと純粋な戦慄か。
 きっとそれは、心地の良いものではないだろう。きっとそれは、やがて絶望へと変わるだろう。
 僕が逃亡を選んだその時、それはきっと絶望に染まる。
 でも、もしかすると僕が立ち向かえば、それは少しでも希望になりえるのではないか?

 もう満足に体を動かすことも難しい、けれど、ここで逃げれば、火炎の恐怖に飲まれた彼らを、さらに突き落としてしまう。

(  ω )(逃げちゃえよっ! / 護らなきゃっ!)(^ω^ )

 影が二つ、僕に囁く。何故だろうか、その声はどちらにも強い誘惑があった。
 どうせ甘い誘惑に染まるなら、一人でも、命が救われる道がいい。
 そうだ、僕はまだ、この力を振り絞る事が出来る。

 さあ、戦うぞ。最後まで気張ってくれよ。気力は全身に漲る。震える手も今は武者震いに思える。
 勝算は、あるのか?

 無論、十二分!

――僕は助けを求める人々を、彼らの希望を"死守する"

 

25 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:28:23.98 ID: bWvL1Rc90
 巨大な質量の直撃を受けた楯は、既に使い物にならないほど破損していた。
 それを適当に投げ捨て、柄の長い、ナギナタと大剣の中間のような武器を作り、両手で構える。
 この傷ついた体では、まともに受けなどしていられない、楯は無用の長物だった。

 落とされる拳、瓦礫のハンマーのようなそれを跳んで避け、続く攻撃をかいくぐり、足元を目指す。
 さきほどから繰り返され、そして無意味に終わったその行動。
 しかし、それでも僕は何とかしてその最も無防備な場所を目指した。

 なんだろう、とても体が軽い。まるで風に舞う羽根みたいに、命を狙う拳から自然と体が避けてくれる。

( ↑ω^)「……はっハハハッ!」

 拳をかわすと突風が頬を撫でて、なんだが笑みがこぼれた。
 ちょうど、足の前くらいにたどり着く、ゴーレムの蹴りは当たらない。
 彼の目の前で、踊るみたいに回避を繰り返せば、相手の攻撃が酷く雑なものだと気付かされた。

 複雑なリズムを刻むその攻撃、だけど、僕は当たらない。
 拳が蹴りが、理不尽な破壊を振りまく、けれども、それに畏怖を感じる事はない。
 鋭い右の蹴りを跳ねて避け、ついに見えた。

(#↑ω^)「せいやああぁあぁっ!」
 
 左の脚を、手に持つ柄の長い剣で打ち払う。 

――刀身から強力な衝撃波を"作り出す"

 狙ったタイミングはジャストミート。蹴りで不安定な体は、不意の衝撃にゆらりと揺れた。

 

27 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:31:35.59 ID: bWvL1Rc90
 衝撃波の反動を殺すように着地。同時、地を這うように跳んで崩れる巨体から逃れる。
 図体のデカいこいつの下敷きになるのはゴメンだ。

 相手が体勢を立て直す前に、素早く下腹部に跳び乗る。
 暴れ立ち上がろうとする体の上は、酷く不安定だ。
 けれども、そんなこと一向に構わない。

 刀身を素早く真上に振り上げ
 そして、そのまま。

――刀身を包むように、巨大な大剣の刀身を"作り出す"

 それは剣と呼ぶにはあまりにも大きすぎた。
 大きく、分厚く、重く、そして大雑把過ぎた
 正にそれは鉄塊だった。

 相手の全長を上回るほど、長大で重厚感溢れる鉄塊
 ゲームや漫画なら、きっと巨大ロボットが振り回すべきシロモノだろう。
 僕の力では、振り上げる事の出来ないそれ
 だが振り上げた状態で作り出せば、問題など一つも無い。

( ゚ω゚)「ダアアアァアアアアァアァアァアァァァ!」

 ただ、何トンあるか想像もできない塊のまま、勢いに任せて振り下ろす。
 その行動はどちらかと言えば、耐え切れずに落とすという方が合っていたかもしれない。

 手に伝わる衝撃は、相手を粉砕し乱雑に破壊を撒き散らして、僕程度の質量などお構いなしに吹き飛ばした。

 

29 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:34:17.16 ID: bWvL1Rc90
 ただ、一振りしただけで、僕は遠く吹き飛ばされた。
 けれど、しっかりと受身を取って、投げ出されたままに勢いを利用して立ち上がる。

 柄を長くしたのは、そうでなければ、刀身に自らが巻き込まれる可能性を考えてだった。
 斬艦刀顔負けの超弩級な剣。恐らく世界で一番デカい、人間が振る事が出来た大剣だ。
 それは、まさしく小さな戦艦を断ち切れる一撃であったに違いない。

( ;^ω^)「嘘だお……はっあはははっ!」

 だが、そのギネス記録の一撃を持ってしても、奴は立ち上がった。
 この化け物がッ! 本当にモンスターじゃないかっ!

 ゆっくりと立ち上がり、そして、コチラを睨みつける。
 肩に刀身をめり込ませ、人間だったら肺に届いているだろうその柄に、手を掛ける。
 痛覚がないのか、挙動にオカシな所はなく、至って自然にその剣を抜こうとしていた。

( ;^ω^)「ははっ!あははははっはっははあははははははっは!!」

 想像を上回る生命力、頑丈さ、生物の領域を超えているとしか思えない。
 だとすれば、正体は機械なのだろうか? それともやはり生物なのか?
 オイルだか体液だか分からない黒い液体が、刀身を伝って地面にしみを作る。

 

31 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:37:15.15 ID: bWvL1Rc90
 刀身は胸の中ほどまで食い込み、そこで止まっていた。
 なるほど、つまりはその位置までに致命的なダメージを与える部位は存在しなかったのだ。
 となれば、半身を分割するほうが手っ取り早いかも知れない。

 ぐちゅぐちゅと嫌な音を立てて、刀身を抜こうと前後に揺らす。
 思った以上に抜けないためか、柄を強く握り直し力を込めて揺すった。
 そのまま、勢いに任せて引き抜こうとしたその時、勝利が見えた。

――奴の持つ刀身を包むように、強力な衝撃波を無数に"作り出す"

 一度二度、数え切れぬほど連続した攻撃が暴れて、内臓を筋肉を引きちぎり、吹き飛ばす。
 一部の筋繊維が爆ぜて地面を転がり、大量の体液が辺りを染めた。
 神経を千切ったのか各所が痙攣し、至るところが歪に捻じ曲がり、鼓動に合わせて体液が溢れ出る。

 それでも攻撃は続く。それは奴の体を引き裂き内臓をぶちまけるまで続いた。
 袈裟斬りに半身を引きちぎられたゴーレムは、当然の如く絶命した。
 振り返り立ち去る背後で、岩の人形が崩れ落ちる轟音が響いていた。

( ^ω^)「僕の勝ちだお」

 

 

33 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:40:21.12 ID: bWvL1Rc90
 
(,,゚Д゚)「(……やべえな。結構強い)」

 少女を抱えたまま、相手の攻撃を勘を頼りに避け、ゆっくりと思考する。
 地面からは無数の鉄筋が飛び出し、葦の原のような様相を呈していた。

 彼女達が何故この状況で無駄な争いをけしかけて来るのかは分からない。
 だが、その事由は守る少女の一言で理解に至る。

(*゚ー゚)「猫さん。上!」

(,,゚Д゚)「……なんつータイミングだ、ゴラァ」

 見上げる頭上に、小さな赤い球体が見える。
 それはフワフワと風に流されながらも、なぜか上昇気流を逆らって、コチラへと降りてきた。
 見間違いでなければ、きっとそれはターゲットとなる風船だった。 
 なるほど、これでは互いに逃げるわけにはいかない。

川 ゚ -゚)「そこを動くな」

 冷たい声がオレの耳を支配して、思わず彼女の姿を見つめる。
 彼女は美しく、それでいてオレの胸の奥から、何か恐怖を湧き立たせた。
 整った眉、白く陶磁のような肌、猫を思わせる切れ長の目、深く澄んだ瞳、すらりと伸びる四肢、はちきれそうな胸。
 何故だろう、彼女は完璧と言えるほど整った容姿をしているのに、奇妙なほど恐ろしかった。

 ただ睨みつけられただけで、氷の杭が心臓を穿ったようにすら思えた。
 それほどの殺気が、染み出るように彼女から溢れ出た。
 訂正する、結構じゃない、恐ろしいほどに強い。

 

37 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:44:32.29 ID: bWvL1Rc90
 回避も埒が飽かない。ここは防御にでて一気に距離を詰めるしかないな。

――Ich heile werden "stark".
――Ich heile wurde "korpulent".

 唐突に全身に強化が施された、今まで忘れていたわけではない、体力を残していたのだ。
 胸に抱く少女は、驚くオレの顔を覗きこみ、微笑みながら囁いた。
 そこに恋人同士の甘さはなく、ただ強い意思と決意が浮かぶ。

(*゚ー゚)「猫さん、こんな作戦はどうかしら?」

 彼女の作戦は、とても有効とは思えないものだった。
 たしかに気を引く事は出来るだろう、けれど、それに動じなければ全く効果がない。
 それに

(,,゚Д゚)「てめぇ、そんなことしたら」

 反射的に声を出した唇に彼女は人差し指を当てて、発言を止める。

(*゚ー゚)「ふふっ、どうせ私をかばって戦うのは不利よ? 大丈夫、ちょっとくらい痛いのもへーきだから」

(,,゚Д゚)「……分かった」

(*゚ー゚)「いい? どんなミスをしても、まず相手を倒すこと。約束よ」

 彼女の突き出す拳にオレの拳をぶつける。
 抱きかかえていた彼女を下ろすと、すこし開き気味に拳を構えた。

(,,゚Д゚)「「反撃、開始っ!」」(゚ー゚*)

 

40 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:47:12.31 ID: bWvL1Rc90
――オレとしぃは、鉄筋の攻撃に"打ち勝つ"

 オレ達の上げた声に反応したのか、周辺一体全てに鉄筋が突き立つ。
 逃げ場が無い攻撃は、しかしオレ達の肌に触れると同時にへし折れた。
 隣で少女が自身の体を強化する気配があったが、それを確認せず、腕で鉄筋を払いながら距離を詰める。

(#,,゚Д゚)「うおらああぁああぁ!」

 折れた鉄骨を手に取り槍を扱うように構え、背の高い雑草のような鉄棒を払った。
 彼我の距離は約10m
 8m……詰め寄る
 6m……打ち払い、前へ
 4m……前かがみになって、タメを作って

 しかし、突き出す刺突は、彼女達を捕らえることは出来ずに空を突いた。
 左右に姿が見えず、遅れ影に気がつき見上げる、そこには天使が居た。

 長い黒髪をたなびかせ、白い翼は小さな火花を散らしながら大きく広げられる。
 羽ばたくたびに発する小爆発を綺麗に拾い、羽根が宙を舞い、彼女は飛翔する天使のように見えた。
 手には無数の小石。それがわずかに霞み、反射的に後方へ跳ねれば激痛が脚を襲う。
 
(,, Д゚)「なっ! ぐっうううぅ!」

 右足に外傷は見当たらず、けれども、咄嗟に手に持つ鉄筋で違和感をえぐり出す。
 抉ったふくらはぎの中からは、小さな石がいくつも埋め込まれていた。

 

43 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:50:16.02 ID: bWvL1Rc90
 
(;,, Д゚)「(座標指定での体内への瞬間移動かっ!)」

 後方から治癒が発動し、自ら抉った右のふくらはぎを回復。
 前を見据えれば、髪の長い天使は鉄面皮を崩さず、羽ばたき抜け落ちた羽根が辺りを白く染める。
 どこか怖いと思えたのは、きっとこの常に崩れぬ冷徹な表情ゆえかもしれない。

 そんな暢気な思考は周辺に落ちた羽根に触れた途端、掻き消された。
 オレを囲うように舞っていた羽根が、急速に渦巻き、そして視界を奪うほどの勢いで、爆発する。

(;,,゚Д-)「あがっ! あっぐおおおおぉおおおぉおぉおぉぉぉ……」

 唐突な爆発の暴力に晒され、魔法の発動に失敗したオレは、ボロ布のように地面を転がった。
 全身がヒリつくように痛み、冷や汗が額を背中を流れ、何をせずとも口から唸りが漏れる。
 立ち上がろうとするも骨の髄から響く痛みがそれを阻害し、立て膝を突いたまま唸ることしか出来ない。
 そこへ地面から飛び出した鉄パイプが太ももを貫通した。

(,, Д )「ウがアああアァああアアあアあぁあぁああアァァぁァぁぁッ!」

(;*゚ー゚)「猫さん、鉄パイプを抜いて! 早く!」

 強い叱咤の声に突き動かされ、自らを貫く鉄パイプを引き抜く。
 錆ついた鉄パイプは、まるでクッキーの型抜きみたいに筋肉の一部に円形の穴を開けていた。
 それを叩きつけると同時、全身を温かい感触が包み冷や汗が――

ξ゚听)ξ「治癒能力を持ってるのはガキの方か」

――引く事は無かった。

 

46 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:53:26.34 ID: bWvL1Rc90
 
(* ー )「あがっ! ああアァああああああアァあぁぁぁああああアアァあああああぁあああぁああああああぁああああああああぁ」

 高く遠くまで響く悲鳴が、鼓膜を叩いた。
 なにか水っぽい音と柔らかいモノを貫く音と骨が砕ける音、それから血が地面に叩きつけられる音。
 聞こえなくたって構いやしないのに、全部が悲鳴の合間を縫うように届く。

「いい? どんなミスをしても、まず相手を倒すこと。約束よ」

 けれど、オレはそれを振り返りはしない。
 ただ空を飛ぶ彼女達を睨んで、その隙を伺う。
 串刺しになっているだろう彼女を見れば、きっとオレの動きは鈍るだろう。それは決して許されない。
 だから、鉄筋を一つ手に取って、その翼目掛け思い切り投げつけた。

ξ゚听)ξ「当たんないわよっ! ばーかっ!」

 挑発には乗らず、宙を舞う彼女を落とそうと、二本三本、連続して投擲したそれは、しかし、彼女達を捕らえる事はない。
 それで良い、彼女達はより高く上昇し、また手に小石を持つ。
 そして、小石は先ほどと同じように霞む。

(,, Д )「ぐっ、ははっ。いてぇなゴルァ!」

 

48 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:57:22.14 ID: bWvL1Rc90
 
ξ゚听)ξ「へ?」

 そう、オレはそれを避けることなく受け止めた。
 だけじゃない。

(* ー )「あははああはははははははははははははははははああはははっ」

 壊れたみたいに全身串刺しの少女が笑い出した。
 腹腔と左の肺と腿と足の甲と二の腕と、無数に突き立つ金属の棒を無視しして彼女は笑った。
 狂気を帯びた行動に、彼女達は驚き、そして生まれる一瞬の隙。

 背後から飛び出した影に彼女達はギリギリまで気が付くことはなく。

 オレが投げた鉄筋は、化け犬のリードを千切ったことに気が付くことなく。

 辛うじて取った防御行動は、長髪の少女の腕をもぎ取り

川;゚ -゚)「くっ」

▼ΦェΦ▼「グルルルルッ」

 オレ達に勝利をもたらした。 
 小石を避けなかったのは、ここを動けば、落下する彼女達にトドメを刺す事が出来ない。
 ただ、それだけの理由。

 だが、甘かった。

 風船は遠くからのナイフの投擲により、破裂したのだ。

 

 

50 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 00:59:22.14 ID: bWvL1Rc90
 
 オレ達に一匹の隠し玉があったように

 

( ^ω^)「悪い、手間取ったお」

 

 彼女達にももう一人の隠し玉が存在した。
 それだけだった。

 

 

52 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 01:02:40.78 ID: bWvL1Rc90
 
(* ー゚)「……逃げましょう。長居は…無用だわ」

 全身に七本もの金属の棒を突き刺して、彼女は立ち上がった。
 精神と神経を"頑丈"にした彼女は、痛みに"打ち勝ち"、無理を背負わせたまま貫く鉄を引き抜く。
 とても正気の沙汰とは思えないが、それは体内に石を入れたオレに言えたことではない。

 風船の破壊を達成した彼女達も戦意を失ったのか、互いに睨み合ったまま、東京タワー跡地から走り去る。
 しぃを見れば、もののけ姫の山犬のようになったビーグルに跨っていた。
 初イベントは早々に敗北か、まだ時間は有るが、風船が見つかる確証はないな。 

(,,゚Д-)「畜生、体力も怪我もやべぇ」

(* ー )「………」

 全身が激痛に苛まれ、こうして走る事が出来るだけで奇跡のようなものだ。
 鉛に包まれたみたいに重たく、思った通りに動かない四肢を何とか振り回し、喧騒から遠い路地へと入る。
 そこでやっと一息つくと、ドサリと少女が崩れ落ちた。

(,,゚Д゚)「あん? どうした? しぃ?」

(* ー )「………」

(,,゚Д゚)「しぃ! おい、どうしたんだッ!」

 倒れ伏せた彼女は、オレの声にも肩を揺さぶろうとも、反応を示さない。
 狭く汚い路地には、オレの叫び声と犬が頬を嘗める音だけが響いていた。

 

55 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/14(月) 01:03:55.62 ID: bWvL1Rc90

( ^ω^)達はゲームクリアを目指すようです

( ^ω^)SIDE・5+(,,゚Д゚)SIDE・3
                        了

 

 

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