7 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 19:25:04.95 ID: bhYSvLoq0
 木の陰から伺うと、数メートル先に警察の一団を見つける。
 その奥にはフェンスが見え、自分が貧乏くじを引いた事を知った。

(*゚∀゚)「1時間でイベント開始だぞ! 走れ!!」

(,,゚Д゚)「わかってるよ!」

 ご親切にも叫び声を上げてくれた女は、懐から取り出したナイフを巨大化させ、まるで棒高跳びの選手のように警察の群れを軽々と飛び越えた。
 それを見てどよめく公僕達の元へ駆ける。
 幾人かが気づいたのを見計らって、ガキと犬とを抱えるように拾ってその場で跳ねた。

――俺の跳躍力はあのフェンスを飛び越えられない運命に"打ち勝つ"

 傍から見れば相当不自然な上昇をして、俺の体はフェンス上部の有刺鉄線を軽々と越える。
 舗装された歩道へ着地すると、抱えた子供の重さで足の裏に衝撃が走った。
 騒がしい警察達は、だけれど、フェンスの向こうにいる俺達を追う術を持っていない。

(,,゚Д゚)「じゃあな、捕まえられるモンなら捕まえてみな」

(*////)「ねっ猫さん離してよっ! セクハラだわ」

 マセガキのケツを叩き、俺はそれを抱えたまま歩道を走って警察を巻いた。

 

8 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 19:26:10.02 ID: bhYSvLoq0

 

  (,,゚Д゚)SIDE・3+( ^ω^)SIDE・4

 

 

 

 

 

10 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 19:29:44.29 ID: bhYSvLoq0
 喚くお嬢様を下ろして汗を拭い、何とかなだめすかして一息つく。
 振り返ると律儀に俺達の跡を付いてきた文字板には、まだ余裕のある猶予時間が表示されていた。
 今から数十分間なにをしよう? イベントまでに出来る事はなんだろうか?

 風が火照った頬に心地よく、同時に秋の陽気が柔らかく俺の背中を暖め、寒すぎると言うことはない。
 隣を並んで歩く少女は、微かに頬を染めオレを睨んで、あからさまに怒りの尾を引いている。
 とりあえず、今回のイベント「バルーンファイト」へ思いを馳せ、その怒りから眼を背けた。

 今回のルールは、懐かしいゲームのように相手の風船を割るのではなく、仕掛けられた的の破壊が目標だ。
 このレトロなネーミングセンスはどうにかならないものか?
 だが、名前から風船が関係することには変わりない。

 風船と言うと高い位置に設置されるのだろうか? それは飛び道具のない俺達は不利だ。
 ターゲットの絶対数も少ないな、50を都内の全域だと一人1つでも破壊できるのは一握りだろう。
 また一目でわかるということは、ターゲット自体は大きいのだろうか?
 仮に大きいとしたら、隠せない……いや、小さくても隠したら発見までに時間が掛かり過ぎないか?
 どちらにせよ、見晴らしのいい場所を探すのが懸命だな。

 最高に見晴らしのいい場所を思いついて、イベントを知らせる文字板を見つめる。
 残された時間はまだ50分以上あるが、間に合うか?

 

11 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 19:33:26.00 ID: bhYSvLoq0
 電車に揺られ、途中一度だけ乗り換えて、俺は日本一有名な電波塔の前に居た。
 フリルでゴテゴテとした少女を引き連れて中に入るのは簡単だが、問題は彼女の引き連れた犬だ。
 この犬は彼女の武器なのだから、引き離すのはまずいが、この日本のシンボルに連れて入るわけにも行かない。
 しばしの逡巡の後、いまさら他に見晴らしのいい場所を探すわけにも行かず、犬を近くの街路樹に繋いで待機させる事にする。

 延々と続くエレベーターから見つめる外の景色は、迫るビルばかりが映る。
 展望台から都内を望めば、いくばかマシだと考えたが、標的のサイズにも寄るだろう。
 実際に直接探す以上に、人の集まり具合を見て、標的の条件に検討をつけるという意味合いの方が大きい。

 ふと見れば、目を輝かせて景色を眺めている少女に気付き、年相応の様に少し笑みがこぼれる。
 エレベーターの窓に張り付いた様は、まるで梅雨時に窓に張り付くカエルのようだ。
 殴られるだろうから、口には出さない。

(,,゚Д゚)「どうよ、風船のありそうな場所に見当がついたか?」

(*゚ー゚)「……ええ、一応ね。猫さんはどうかしら?」

 彼女は景色から視線を剥がし、俺に挑発的な笑みを向けながら首を傾げて尋ねる。
 俺が感心したように眉尻を上げると、彼女は腕を組み口元に手を当て、芝居がかった様子でその予想を披露する。

(*゚ー゚)「ふふっそれはね……」

 イベント開始まであと10分を切った。

 

13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 19:36:47.38 ID: bhYSvLoq0
 イベント開始宣言からバトル開始を禁止されたため、事前に動作していたフィールドに乱入させてもらう。
 そのままクーに触れると、魔法によって景色が瞬間灰色に変わり

――東京タワー周辺の人目につかない位置へ、私と私の触れている存在を"転移する"

 気がつくとそこは有名な赤い鉄塔が近くに見える路地裏だった。
 リングアウト扱いのために表示された「you lose」を見て、経験値の減少を確認する。
 乱入させてもらったタクシー代だと思えば、安いものだろう。

川 ゚ -゚)「さて、随分と時間が余っているな」

 そう言われ、イベントのルールを表示している文字板を見れば、まだ40分以上残っている事に気がつく。
 このまま、のんびり観光と言うわけにもいかないだろう。
 ならば、彼女達の能力の再確認と作戦を練る時間に当てたい。
 そう考えていた所に、金髪の少女がなにやら獰猛な笑みを湛えて、こちらを振り仰いだ。

ξ゚听)ξ「……近くで戦ってる音がするわ。肩慣らしさせてもらおうかしら?」

 両手を組んで指を鳴らし、まるで狩りに臨む獅子のように、犬歯を見せて微笑むツインテール。
 確かに工事のような音がかすかに聞こえるが、その場所までは僕には、てんで分からない。
 だが、彼女にはそれで十分な様子で、その攻撃的な表情を崩すことなく、路地の奥へと進み始めた。

 

14 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 19:40:54.35 ID: bhYSvLoq0
 路地の奥に進むと、そのフィールドはすぐに見つかった。
 イベント開始は皆理解しているだろうに、その連中は対戦を止める気配を見せずに、長くの間戦闘を行っているようだ。
 恐らく、イベント開始直前まで続けているつもりだろう。

 フィールドのギリギリ外には、壁により掛かるように一人のガラの悪い男が立っていて、僕達を見ると、けだるげな瞳をこちらに向ける。
 見たところプレイヤーではない。
 見張り、なのだろうか? イベントの時間になったら知らせる役目もあるのだろう。
 イベント発令前と言う事は、既に30分近くゲームを続けている事になる。

川 ゚ -゚)「見張りご苦労。すぐにこのゲームを終わらせてあげよう」

 彼女の自信たっぷりな挑発に、男は嘲りを多分に含んだ笑みを返し、脇にどけて道を譲ってくれた。
 初めてのパーティ戦。でも、彼女達の能力を鑑みれば、僕が一人で戦っていると思えばいい。
 ただ、少々使える魔法が増えただけだ。

( ^ω^)「さあ、いくお!」

 HERE COME NEW CHALLENGER!!

 

15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 19:43:38.01 ID: bhYSvLoq0
 乱入を告げる文字板が各々の頭上に表示され、戦い合っていた数人がコチラに振り返る。
 性質が悪い事に、一人のプレイヤーを数人で砂にしていたらしい。
 なるほど、見張りの男は警察避けか。

 ここで苛め抜いて、イベント直前に気絶させ、誰かが着たら追っ払って、カモは道を譲って乱戦。
 魔法が使えないフィールドの外では、屈強な男は恐怖だろう。
 プレイヤーではないので、フィールドを展開することも侭ならない。

 ああ、しかし、ちょうどいい。
 こんな戦い方をして、自警団に潰されないわけがない。
 つまり、相手は法外な方法で高いレベルになっていたとしても、所詮は初心者ということなのだ。

 肩をツンが叩き、彼女は魔法で僕の背中にくっつく形で、"変化する"。
 クーにも同じ魔法を与え、僕の背中に一対の翼が誕生した。
 ツンは白く、クーは黒く、巨大な翼は天使と呼ぶには少々無骨で、神々しさに欠けるだろう。

 

 雑魚達がコチラを認めて、囲んでいた少年を気絶させると、皆一様に振り返った。
 そしてそのまま、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら距離を詰めていく。
 どうやら彼らは、コチラの強さが見掛け倒しではないことを、知らないようだ。

 

16 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 19:48:12.47 ID: bhYSvLoq0
――右手に日本刀を"作り出す"

――翼を用いた剣術と体捌きを"極める"

 右の手に金属特有の重さと柄巻きの凹凸を感じ、同時に魔法の反動から倦怠感が圧し掛かる。
 クーの"補強する"魔法が全身の身体能力を高め、ツン達が変化した翼から羽根がこぼれ落ちて、周囲を包む。
 その落ちた羽根が、ツンの魔法で"舞い踊り"、吹雪のように辺りを吹き荒れた。

 相手の数は四人。

 白と黒の羽根が踊る視界の中、数を数えながら、まず、一人に詰め寄る。
 鉄パイプを持った男だ。
 羽根の乱舞に驚いたようだが、すぐにこちらへ得物を振り下ろす。
 だけれど、その速度は目で追えるほど遅い。

 

20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 19:51:09.59 ID: bhYSvLoq0
 切っ先で軽く払い、返す刀で根元を強く叩く。そのまま手の内で刀身を返し、峰で親指を打ち払った。
 武器を取り落としたのを確認しながら、回し蹴りを男の側頭部へ打ち込む。

( ^ω^)「次」

 右からナイフを腰溜めに構える男が一人、逆袈裟でナイフを払い、峰で首元を打つ。
 左から男が何かを振り下ろそうとするが、その瞬間、辺りを舞っていた羽根が爆発を起した。
 ツンが"自爆した"のだと理解する前に、手元から刀が消える。

 "転移"し、地面から"飛び出した"僕の日本刀は、最後の男の顎へ柄尻を打ち込み、昏倒させていた。
 それでちょうど四人、目の前に「You win」の文字が出て、フィールドが消える。
 戦いの高揚もないまま、あっけなく、勝利が訪れた。

 

21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 19:54:20.67 ID: bhYSvLoq0
ξ゚听)ξ「よわっ」

川 ゚ -゚)「肩慣らしにもならんな」

 姉妹は各々勝手な感想を漏らして、翼から人間の姿をとりもどした。
 僕はフクロにされていた少年を助け起してやると、彼はお礼を述べてから走ってどこかへと去って行く。

( ^ω^)「…………」

 強い、圧倒的なまでに強い。
 単純に魔法の組み合わせの幅が、三倍に増えた、という以上の強さだ。
 パーティだから、と言うわけではなく、最高に相性のいい仲間を手に入れたのかも知れない。
 僕が作った武器を羽根の中に混ぜるだとか、大量の武器で剣山を作るだとか、応用が幾らでも浮かぶ。

 だが同時に、彼女達の足を引っ張ってはならないという枷が圧し掛かるのも感じた。
 この姉妹だけであっても。チンピラを潰すのはわけないのだ。
 僕は背中に二人を守り戦う、盾兼、格闘武器と行ったところであろう。

 彼女達と戦い続けるなら、僕はもっと強くなる必要がある。

 

22 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 19:57:56.05 ID: bhYSvLoq0
 空が随分と近くなった展望台から下界を眺めつつ、俺達は無言で時間が訪れるのを待つ。
 その沈黙に耐えかねたのか、しぃは俺を見上げて口を開いた。

(*゚ー゚)「ねぇ、猫さんは、なんでこのゲームに参加したの?」

(,,゚Д゚)「あの忠告文が冗談か、凝った演出にしか見えなかっただけさ」

 死ぬ可能性があるだとか、実際に喧嘩で勝敗を決めるだとか、そういったもの全てが、俺にとっては冗談のようにしか見えなかった。
 おそらく、10人中10人があの説明文を凝った演出だと解釈するだろう。
 人間の常識を持ち合わせていれば、当然の事だと思う。

 俺もその例外に漏れず、純粋な興味だけでこのゲームに参加し、だけど、今は後悔はしていない。
 このゲームのルールは最悪だが、史上最高のゲームだ。
 もたらすスリルも興奮も達成感も、どんなゲームやスポーツ、女でさえ、比にならない。

(*゚ー゚)「それが普通よね? でも、私は違うわ」

(,,゚Д゚)「あん?」

(*゚ー゚)「私はゲームに望んで参加したの」

 俺はそういった彼女に、どうやって? とも、なぜ?とも聞かず、無言で続きを待った。

(* ー )「友達がね? ゲームに巻き込まれて死んじゃったんだ……」

 

24 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 20:00:21.51 ID: bhYSvLoq0
(,,゚Д゚)「そろそろだな?」

 彼女の辛そうな顔を見て、だけれど近づく時間にテンションを落とすわけにはいかず、俺は始まりそうな話を切り替えた。
 いや違うな、重たい気配から、単に俺が逃げただけだ。

(*゚ー゚)「そうね」

 刻一刻と迫る時限は、ついに目前と呼べる距離まで迫っていた。
 イベントは毎度の如く戦争のような様相をみせると聞くが、残念ながら俺は参加経験はない。
 だからだろうか、イベントに対する期待と興奮が混ざり合って奇妙な高揚感の中にいた。

(*゚ー゚)「随分と楽しそうね?」

 不思議と、不安は感じない。

(,,゚Д゚)「ああ、実際楽しいぜ? ガキでもねぇってのに、ワクワクしてたまんねぇ」

 胸の底から湧き上がるようなハイテンションが、指の先まで浸透して活力が漲る。

(*゚ー゚)「ほら時間よ?」

 3……2……1……来たぜ。

 GAME STARTの文字板と、遥か遠方まで包む巨大なフィールドの展開。
 今までルールを表示し、カウントダウンをしていた文字板は、跡形もなく消え去った。
 展望台の窓から異変がないかと周囲を見渡す。果たして、風船は一目で見つかった。

 

25 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 20:03:49.32 ID: bhYSvLoq0
 遮蔽された太陽光に驚き天を見上げれば、それは上空にいつの間にか浮かび上がっていた。
 雲と見まがうような、遠近感を狂わせるほど巨大な、紅い気球。
 空をその巨体で隠し、優雅に堂々と唯一つの気球が東京全体を陰で覆う。

 唐突に現れたそれは、プレイヤー以外には見えないようで、一部の人間だけが一様に天を指差す。
 だというのに、大半の人間はまるで気がついた様子もなく、日常を送っていた。 
 絶対にアレが一つ目の風船だろう。確かに、一目で判る標的だな。

 しかし、同時に俺はあの高さへの攻撃手段が見つからず、幾人かの射撃攻撃が着弾するも、全てが風船を破壊するに至らない。
 あのサイズを支え、さらに魔法などの防護が掛かっていると考えれば、皮は重厚で、相当堅牢に違いない。
 どうしようかと悩んだ途端、なにか凄まじく熱いものが

――俺と俺の仲間は、あらゆる攻撃に"打ち勝つ"

 視界を埋め尽くすように吹き荒れた。
 俺達を巻き込んで風船を四散させたのは、世界を丸ごと焼き尽くすような白い炎だった。
 日本のシンボルは、そのたった一度の魔法で全壊した。

 

26 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 20:07:05.27 ID: bhYSvLoq0
川 ゚ -゚)「強くなりたい、か」

( ^ω^)「コツだけでも教えて欲しいお」

 路地を目的地に向けて歩きながら、僕は彼女達にその疑問をぶつけた。
 不安定な独学以上に、先人の経験を生かす方が得策だと踏んだのだ。
 もし結果的にこのイベントの後、彼女達とのパーティを解消してしまうとしても、その技術を盗んでおくのに越した事はない。

ξ゚听)ξ「そんなのカンタンじゃない。このゲームの必勝法は強くあることよ」

 僕の質問に答えたのは、ツインテールのチビだった。
 それも理解のできない、抽象的すぎる当たり前の言葉を押し付けられる。
 僕がそれを理解出来ないような素振りを見せると、彼女は呆れたようにため息をついて説明を続けた。

ξ゚听)ξ「このゲームはイメージが大切なの。なにしろ、思った事が現実になるんだから」

 腕を組み、俺の方へ視線を送る事はせず、ただ前を見ながら言葉を紡ぐ。 

ξ゚听)ξ「だから、自分は最強なんだ。絶対負けないんだ。って思えば、ホントに負けないのよ」

 

27 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 20:10:05.27 ID: bhYSvLoq0
 自分が負けるビジョンを絶対に浮かべないこと、ということだろうか?
 いや、これは後ろ向き過ぎる、勝つビジョンだけを見る、なるほど、どうしてなかなか

( ^ω^)「……それは、簡単じゃないお」

ξ゚听)ξ「アンタ、そんな簡単に強くなれると思ってるわけ? バッカじゃないの?」

( ^ω^)「おっおっおっ、言われて見ればそうだおwww」

ξ゚听)ξ「ばーかばーか」

 くるりと振り返って、歩きながら僕の額を人差し指でつつく。
 しばらく突くと飽きたのか、目も眩むようなデコピンの一撃を浴びせて、執拗な攻撃を止めた。

( ^ω^)「(強く、あること……)」

 心理的にも、肉体的にも、と、言う意味だろう。
 それは口で言う事は簡単でも、実際は酷く難しい。
 けれども、なるほど、心の片隅に留めておくことに価値はありそうだ。

 そう心に刻んでいると、 チビツインと僕の会話を黙って聞いていた彼女が声を掛けてきた。

川 ゚ -゚)「もっといい方法があるぞ?」

( ^ω^)「おっ?」

川 ゚ -゚)「なんでもいい。このゲームに目標を持つことだ」

 

30 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 20:15:08.24 ID: bhYSvLoq0
 そう宣言した彼女の瞳は、強く輝いていて、だけれど、希望などと言った前向きな感情は読み取れない。
 ただその目に映るのは、漠然とした強い感情で、その方向を探ろうとする前に、彼女は不意にこちらを見た。
 視線が合って、なんら悪い行為はしていないと言うのに、反射的に目を逸らす。

川 ゚ -゚)「そうすれば、いざと言うとき、自分にはやらなくちゃいけないことがある、って思えるだろ?」

( ^ω^)「なんか、王道ジャンプみたいなノリだお」

川 ゚ -゚)「それでいいのさ。自分に酔えば、少なくとも心は強い」

( ^ω^)「なら僕は、ゲームクリアを目指すお!」

ξ゚听)ξ「アンタ正気? ゲームクリアの条件はわからないのよ? 本当にクリアできるかさえもね」

 安易に選んだ夢には強い執念はない。それは全く無駄な行為だ。
 だが、しかし、この夢は絶対に果たしたい、執念と呼ぶに足りる目標だ。
 僕にはこのゲームをクリアする必要がある、馬鹿馬鹿しい争いを全て防ぐ為に、絶対に……

( ^ω^)「そういえば、クーさんの目標は一体――」

ξ゚听)ξ「待って!」 

 

32 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 20:19:24.67 ID: bhYSvLoq0
 少女の制止に、警戒状態へと心を高ぶらせ、軽く身構える。
 辺りは随分と人が多く、いつの間にか目的地であった、赤い鉄塔に辿りいていた事を知った。
 彼女が警戒する視線の先には、プレイヤーの存在を示す文字板が二つ。
 名前はMO・lalarとMO・nar、そのレベルは

(;^ω^)「にひゃく……」

 格が、違う。圧倒的なまでの、強さを示すその数値。
 このゲームに置けるレベルのメリットは少ないというか、ほとんどない。
 主な用途はその大体の強さの指標くらいで、それも高くなればなるほど敵に警戒されやすい。

 あるとすれば、200を超えるとゲームクリアだとか言う噂と、経験値目当ての敵が増える程度。
 ハイリスク・ローリターン。
 だからこそ、ワザと負けてレベルを調整するプレイヤーが存在するほどだ。

川 ゚ -゚)「まずいな。奴らは」

ξ゚听)ξ「このゲームで一番強いと噂のバケモノよ」

 他を圧倒するその強さで、全てを蹴散らす強者である、その証。
 僕は微かに自分の腕が震えているのを、まるで他人事のように感じていた。

 

35 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 20:24:24.47 ID: bhYSvLoq0
 クーの提案で、当初の目標であった赤と白の電波塔から、距離をとる。
 彼らとまともに戦っては、犬死の結果は見えているからだ。
 なんでも、彼らの能力は炎を中心とした、あらゆる災害を簡単に引き起こすらしい。

 息を潜め路地に隠れ、ただ黙って時を待つ、そしてイベント開始の時間が訪れた。
 風船を探そうと一歩目を踏み出すと同時、何かが起きた。

川 ゚ -゚)「ほう、コレは……」

 それは天まで届くような火炎の柱だ。
 それが鉄塔を飲み込み、飴細工のようにぐにゃりと捻じ曲げる。
 崩れ落ちた日本のシンボルは、周囲のビルを巻き込んで、窓ガラスが熱風だけで砕け散った。
 熱による恐ろしいほどの突風を生み出して、周囲の人間が喚き、抵抗もむなしく吹き飛ばされる。
 大勢の人が炎に飲まれ、また、爆風に焼かれ、飛び散る鉄塔の元部品が降り注ぐ。

 彼らの存在を見止め、退避していた僕達の近くまで、その被害は及ぶ。
 まるで、火山の噴火のような、天災の如き一撃。
 それは余裕を持って天を覆った気球を破壊し、辺りを阿鼻叫喚の地獄絵図へ塗り替える。

(  ω )「……」

 その瞬間、世界がチカチカとスパークするまばゆい白色で染まった。

 

37 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 20:28:44.81 ID: bhYSvLoq0
 何か熱い感情が胸を焼き、気がつくと、僕は燃え盛る炎へと駆け出していた。
 クーがそれを見て、慌てて強化の魔法を施しながら僕を呼ぶが、知った事ではない。
 僕は彼を許さない。許せない。

――炎を蹴散らす衝撃波を"作り出す"

 泣き叫ぶ人は、プレイヤーではない、巻き込まれただけの人間は、関係ないじゃないか。
 彼らならば、威力くらい調整できただろう?
 恐らく気球破壊後に何が起こるか分からないために、保険として混乱を発生させたのだ。 

――左手に盾を、右手に槍を"作り出す"

 そんな個人の感情で、何人の人間を殺したんだ?
 それが一体どれほどの不幸を生んだんだ?
 それは人間に許される行為だと、思っているのか?

――あらゆる障害を乗り越える体捌きを"極める"

 足を舐めようと迫る炎を跳んで避け、崩れる鉄柱を顔を少し逸らしてかわす。
 一瞬脚を止め、空から垂れた溶けた鉄から身を逃がす。
 身を隠すほどの盾を使って、燃える何かを弾き飛ばし、更に前へ。

 

40 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 20:33:04.82 ID: bhYSvLoq0
 酸素は燃え尽きただろうに、何故か息苦しくはなかった。
 いや、燃え尽きてなどいない、彼女達の魔法でも、僕の魔法でも酸素を供給する方法などない。
 純粋にただ熱いだけで、この炎は何か別のモノを燃料に燃えているのだ。
 どんな魔法を使えば、どれほど残虐ならば、こんな行為ができるのか、僕には理解出来ない。

(  ω )「………」

 消し炭になっても、相手を守ろうと抱き寄せるカップルが
 黒い塊になった我が子を抱き寄せ、助けを叫ぶ母親が
 下半身を焼かれ、上半身だけで這いずりまわる女子高生が

 僕の中で、溶けた岩のような怒りをさらに激しく燃え上がらせる。

――僕の前に存在するあらゆる障害を吹き飛ばすほど、強力かつで高速あり、収束性の高い衝撃波を刃から"作り出す"

 振るった槍から何もかもをなぎ倒す衝撃が生まれ、微かに見えるビルまでの道を作り出した。
 その未知の中ほどに、件の彼らの姿が見つかる。
 僕の衝撃を受けてなお、彼らは平然とコチラを見つめていた。

 魔法の負荷がまとめて訪れ、口から血の塊を吐くが、感情が彼らと戦えと命令する。
 それだけで、血を吐くくらいの代償など、なんの障害にもならなかった。

 

43 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 20:36:04.76 ID: bhYSvLoq0
( ´∀`)「なんか来たモナ」

( ・∀・)「それより見たかお前、あの気球からなんか、いっぱい落ちてきたぞ。風船か?」

 彼らはまるで、自分達の行為が常識とばかりに、周りで喚く人々を無視して話を続けていた。
 とはいえ、彼らの周囲は被害も酷く、生き残っている人間など存在しない。
 どころか、死体すらも余りの高熱に黒い染みになっているようだった。

(  ω )「てめぇら、殺すお」

 駆け寄る僕に彼らは興味がないのか、なにやら雑談を続けている。
 そして、何かを決定したのか、突如現れた黒い竜へと二人で飛び乗った。
 全てを焼き尽くし、燃やすものがなくなっただろう炎は、次第に勢力を弱めている。

(# ω )「逃げるなお!」

( ´∀`)「自治厨か? まあ、こいつとでも遊んでろモナ」

 残されたのは、砕けたアスファルトとコンクリで作ったような木偶人形。
 現代風にアレンジしたゴーレムとでもいえば、わかりやすいだろうか?
 ところどころから炎が漏れ、鉄筋やパイプが突き刺さっているのが伺える。

 

 

47 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/27(日) 20:40:36.41 ID: bhYSvLoq0

(# ω )「逃げるなッ! 俺と戦えええええぇええぇえぇえぇぇ!!!」

 

 黒い翼膜をはためかせ、どこかへと消え去る彼らへ、僕は喉が許す限りに吼えた。

 火の粉が舞う空を見上げると、情けなくその視界は歪んだ。

 ( ^ω^)達はゲームクリアを目指すようです

                                    (,,゚Д゚)SIDE・3+( ^ω^)SIDE・4 了

 

 

 

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