3 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:22:33.05 ID: dWGvb7kO0
着信音に起され、最悪の気分で向かえた早朝。
そのメールの内容は、理不尽にも場所と時間が指定されていて、オレは怒りを堪えて着替えを始めた。
服装は動きやすいモノを優先的に選んだ。
呼び出しは、あのしぃというガキからだった。
向こうも学校があるだろうに、指定されたのは完全にそれらを無視した時間帯。
まあ、どうせ学校なぞサボるから問題ないが、人様を使いっぱしりにする姿勢がイラつかせる。
それら以上にガキを連れて街中を歩くというのも、耐えがたい屈辱だ。
これなら、死んだ方がマシだったかもな。
そんな思索の中で朝食代わりのヨーグルトを平らげて、家を出る。
秋とは思えない鋭い朝日が瞳を焼いた。
その清々しさが、子守するオレをあざ笑っているようで、理不尽だとは思いつつも苛立ちはさらに積もる。
(,,゚Д゚)「あー……やってらんねぇ」
そんな悪態が口から零れるが、足はしっかりと駅へ向かう。
ガキが負けたらオレの経験値が減るのだ。と、頭の中で言い訳しながら。
5 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:25:44.99 ID: dWGvb7kO0
少女はフリルの付いた大きなスカートのワンピースに大きな麦わら帽子、と随分と目立つ姿だった。
あの犬ももちろん連れていて、どこか冷めた笑みの仮面も完璧に貼り付けている。
指定された場所は待ち合わせ場所のメッカで、平日の朝だと言うのに兎角人目に付いた。
皆がその駅前の象徴するシンボル前で携帯電話を見つめながら、立ち止まっている。
そんな場所で
(*゚ー゚)「猫さん、ここよ」
だのと呼ぶのだから、たまったじゃない。
並んで歩けば周囲の眼線が辛く突き刺さり、携帯を弄る人を見るたび生きた心地がしなかった。
被害妄想だとは思うが、この状況に慣れる日は来るのだろうか? 来ない気がする。
(,,゚Д゚)「おい、糞ガキ。次の待ち合わせ場所は人が少ないとこな?」
(*゚ー゚)「え? ……なにする気?」
(♯゚Д゚)「なにもしねェよ! ロリコン扱いしたらぶちまけるぞゴラァ!」
冷たい笑みを浮かべ、さらりと返すこのマセガキは、意味理解してるのか?
きっと、周囲は仲の良い兄妹だと思っているだろう。
いや、そもそも他人のことなぞ興味の範疇外だな。
冷たい視線など所詮は本人だけが感じるものであって、実際にはそんなもの存在しない。
そう思わなければ、本当に慣れる日が来る事はなさそうだった。
6 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:28:57.80 ID: dWGvb7kO0
少女には何か目的の場所があるらしく、オレと合流すると勝手に歩き出した。
オレは少女から離れないよう、隣に並んで歩く。
表示板のお陰で人ゴミでも見失う事はないのだが、仮に引き離されると合流の手間がかかるのはごめんだった。
四方へ視線を巡らせプレイヤーを探しつつ、適当な会話をして繁華街を共に進む。
(,,゚Д゚)「なあ、その格好はゲームする気があるのか? ふざけるなよ?」
(*゚ー゚)「なにが?」
(,,゚Д゚)「動きにくいし、犬なんか連れやがって、やる気ないないなら張り倒すぞ」
お遊びじゃないんだよ、金も命もかかってんだ。舐めてかかってるとブチ殺すぞガキが。
そんな意図を暗に含みながら、睨むと
(*゚ー゚)「もしかして、好みじゃなかったかしら? あ、大丈夫よ、スパッツ穿いてるから」
などと見当違いな事を言い出したので、頭を小突いて諦めた。
なんで、オレはこんなガキと学校サボってまで遊んでるんだ?
その疑念が、時が立つにつれ段々と強まるのは決して俺の勘違いではないだろう。
8 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:30:57.12 ID: dWGvb7kO0
しばらく歩いて、ちょうど良い対戦相手を見つけ声をかける。
そいつは大学生くらいの冴えない男で、Lvは33と高めだが、二人がかりなら経験値的にもちょうどよいだろう。
ガキは向かう場所があるようだったが、相手のレベルを見ると対戦を優先した。
相手がガキと一緒だと知っても、快く引き受けてくれたのは僥倖だった。
舐めて掛かられるのは腹が立つが、それがこのガキと組む最大の利点だ。
そう覚悟していたが、この男は別に馬鹿にする訳でも油断する訳でもなく、近くの路地で相対する。
ガキのお守り相手でも手は抜かないってか? カッコいいねぇ、虫唾が走る。
('A`)「……そんじゃまっルール基本でゲーム開始と行きますか」
男の声でフィールドが広がり、文字板がゲームの開始を告げる。
コイツはソロだから、万能の能力であることを意識した方が良いだろう。
ガキを庇う立ち位置でオレが身構え、回復に専念するように告げた。
少女は頷いたように見えなかったが、怒りをぶつける前に男が砂煙を巻き上げ迫る。
振り上がる拳、殴り合いか? いいねぇ、燃えるじゃねぇか!
――オレの体はこいつの攻撃に"打ち勝つ"
オレはわざとガードも構えず、満面の笑みで拳を胸部で受けた。
9 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:32:41.45 ID: dWGvb7kO0
拳の運動以上の衝撃が、ぐらりと体を揺らした。
白い衝撃に飲まれそうな意識を歯を食いしばって繋ぎとめ、よろめく足は地面を捉えて踏みとどまる。
直撃の瞬間、後ろからの回復支援があった。
なければ今ごろ一発でのされてたな、あのガキ反応良いじゃねぇか。
相手の魔法はなんだ? 防御の無効化か?
異常な威力も鑑みると"抜ける"や"貫通する"といったところだろうか?
(♯゚Д゚)「はっ! 効くかよ!」
防御魔法で出鼻をくじくつもりが、攻撃が抜けやがった。
余裕を見せたのが不味かったな。
――オレの身体能力を"高める"
ガキのkorpulent(頑丈な)も重なって、全身に力が溢れた。
左を前に半身に構え、牽制のために放つ拳は後ろに飛んで避けられた。
(,,゚Д゚)「(格闘技はやってねぇな、スウェーして……いや迫ってきたのを鯖折りで叩き伏せる)」
少しガードを高めに構えなおして、相手の俊足に備える。
この男はオレ以上に万能型だ、しかも能力のみならず運動能力そのものが強い。
相手の残りの魔法が、防御か回復なら分が悪いな。
11 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:34:06.89 ID: dWGvb7kO0
少女と俺自身の魔法で強化された拳を固く握る。
相手の速さに着いていくのは不利だ。
接近を待って、来た!
鯖折り……無理だ、相手のリーチが意外と長い。
右ストレートをスウェーして、カウンターに左ジャブ。
一歩下がりつつロー、左ボディを引いて避けると冷や汗が流れた。
しかし、その好機に一歩詰めて密着し――クソッ。
相手は至近に寄られると不利と見たのか、ひと跳びで3メートルほどの距離をとる。
薄暗い路地に冷たい風が吹き込んで、生ゴミの匂いと何かが混じった臭いが鼻をくすぐった。
この臭いは、獣臭の類か?
向き合う男がオレから視線を剥がし、何かを見つめた。
(,,゚Д゚)「余所見とは余裕がある挑発だな」
挑発するが、同時に心で燻るものがある。
万能の手本のような男が、そんな行為をするとはなんとも違和感がある。
耳元で聞こえた低い唸り声に振り返ると、俺の隣には一頭の獣が並んでいた。
▼ΦДΦ▼「グルルルルル……」
牙を向き出し、全身の毛を逆立てて唸る姿は、狼のようにさえ見える。
大きさは優に2メートルを超え、尋常ではない存在感を撒き散らしていた。
(*゚ー゚)「ビーグル、Gehen Sie voran!」
獣が疾風のように飛びかかった。
12 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:36:21.12 ID: dWGvb7kO0
よくわからないが、この化け物はオレに飛び掛ることなく相対する男へと噛み付いた。
男は寸での所でかわし、ビルの壁を蹴って高く跳躍する。
――オレはあの男の跳躍力に"勝利する"
慌てる姿を見て、走り寄った勢いのままオレは高く高く跳躍した。
壁を伝う配管にぶら下がる奴の目の前へ、一瞬で近寄る。
体を空中でひねり、半回転させて繰り出すのは渾身の回し蹴り。
その蹴りは空を切るが、それでいい。
蹴りを避けるために男が下した判断。
それは、配管を放した自由落下による回避。
それ以外に蹴りを避ける逃げ場はなく。
そして、落下にすら逃げ場はなかった。
落下の直前に、ガキの指示で獣が跳ねる。
空中では回避行動も取れずに、じゃれる様にさえ見える獣が迫った。
その牙は男の喉元へ突き刺さり、噛み千切り、爪が腹部を捕らえ、引き裂いた。
2人と1匹が着地すると、盛大な血飛沫が汚い路地に広がった。
13 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:38:42.97 ID: dWGvb7kO0
組んでからの初勝利の味を噛み締めることもなく、オレ達は並んで雑踏を掻き分けた。
着地の擦り傷も含めて、あらゆる怪我は既に回復していた。
少女の顔に薄っすらと汗が浮くのを袖で拭ってやる。
傷を癒すのはスタミナの消費は激しいのか、覚えておこう。
拭う袖を少女は嫌そうに手で払い、そして意外そうな顔でこちらを見つめた
(,,゚Д゚)「どうした?」
(*゚ー゚)「……なんでもないわ」
一部のプレイヤーが稀に見せるあの自信溢れる視線。
彼女はそれを瞳に宿し、こちらをただ見つめていた。
確かに、ただのガキだとは思っていなかった。
瀕死の怪我を見ても平然とし、常に冷静な判断を下す。
その姿は、まるで血の通っていないとさえ思えた。
小学生と言う年齢を考えるとそれは空恐ろしい事だが、プレイヤーと言う肩書きがそれを忘れさせていた。
今それを思い出して俺は驚愕し、それ以上に畏怖する。
コイツは血の通う人間で、のみならず、列記としたプレイヤーなのだ。
15 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:40:11.31 ID: dWGvb7kO0
(,,゚Д゚)「そうか、しかし意外だな」
先ほどのあっけない勝利、確実に相手は強かった。
俺一人なら勝てたかどうかも際どいところだ。
その勝利は、この女の判断力と純粋な強さによるものだ。
(*゚ー゚)「私とビーグルが強かったのがそんなに意外かしら?」
元より、ビーグル犬は猟犬だ。
一般的な猟犬と違い、ウサギ猟などに使う犬種だが、それでも狩りが上手い事には違いない。
彼女は魔法などで操るわけではなく、この犬を戦闘向きに調教したらしい。
オレが意外に思ったのは、この事ではない。
(,,゚Д゚)「そうじゃない、アイツの傷を治したことだ」
冷徹で血すら通わないように見えた女は、意外にも意識を失った男を助けた。
それは所詮小学生のマセガキ、と言うものだけではない気がした。
確かに放置すれば死亡、よくても障害が残っていただろう。
だが、例え付き合いが短いとはいえ、彼女の性格は利害無しに助けるようには思えない。
いや、それを予想外と思うことこそ、付き合いが短いからなのかもしれない。
彼女は勝利を告げる文字板を見る前から、回復のために走り寄ったようにさえ見えたのだ。
(*゚ー゚)「そうかしら?」
(,,゚Д゚)「血も涙もない奴かと思ったんでな」
(*゚ー゚)「ふふっ酷いネコさん」
彼女は薄く笑ってオレの顔を下から覗き込み、そして、満更でもない表情でオレの一歩先を進んだ。
17 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:41:24.68 ID: dWGvb7kO0
やがて雑踏から離れ、大きな道路の脇を少女と並び歩く。
彼女が案内してくれたのは、鉄条網フェンスに囲まれた雑木林だった。
鉄塔と二基のパラボラアンテナが遠くに見える。
全体をツタに包まれ緑一色に染まった建物も見え、この建築物が長い間放置されている事を物語っていた。
(,,゚Д゚)「ここは、なんだ?」
(*゚ー゚)「元米軍基地よ。そして、今は大規模な溜まり場」
この場所はネットで調べたものらしい。
溜まり場ならゲーセンの方が近いが、ここの方が広い場所がある、対戦に困る事はないだろう。
しばらくフェンスの脇を進むと、人為的に溶かされ途切れた場所があった。
踏まれへし折れた雑草が、数人が入っただろう事を伝えていた。
明らかにプレイヤーの仕業とみて間違いないな。
いずれ警察が閉鎖するだろうが、プレイヤーはまたどこかをこじ開けるだけだな。
フェンスの穴を潜り雑木林を抜ければ、なるほど基地らしい建築物が見つかる。
どれもが年季が掛かっていて、例えば電燈の今は見ない形状などが歴史を感じさせた。
18 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:44:14.29 ID: dWGvb7kO0
中では2、3人程度のプレイヤー達がたむろし、また比較的近くにフィールドが広がっている。
ガキ連れだからだろう、たむろするプレイヤーがこちらを見てニタニタと笑った。
それらを無視してオレが先に進む。
だが、少女はまるで挑発に乗るかのような笑みさえ湛え、男達へと歩み寄った。
(*゚ー゚)「ねぇあなた達、ゲームしないかしら?」
(;゚Д゚)「おい!」
俺の制止なぞ軽く無視して、少女は男達と話を進める。
だが、男達はまるで相手をする気などないように、ヘラヘラと笑って生返事を返していた。
その表情をまるで楽しむかのように、少女は交渉を続ける。
(*゚ー゚)「じゃあ、あなた達が勝ったら、10万円差し上げるわ」
その発言に一瞬だけ眼の色を変えたが、男達は子供の戯言だと鼻で笑う。
その態度はただの数秒で、ポシェットから取り出された現金によりがらりと変わった。
皆がこちらをギラついた眼で睨み、やがて4人組の屈強な男達がずいと前へ出る。
パーティか、勝てるかねぇ?
だが、ウチのお嬢様はそれでは満足がいかないようで、オレの心労を嘲るように条件を続けた。
(*゚ー゚)「面倒じゃない、あんた達まとめて乱戦でいいわよ、かかってらっしゃい」
20 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:46:13.01 ID: dWGvb7kO0
無駄な苦労を負わせやがって、殺すぞクソガキ。
そんな内心を知ってか、彼女は勝者に10万を渡すと宣言してゲームを開始した。
ルールは基本、つまり、乱入アリ。
ゲーム開始後にフィールド内に侵入すれば、乱入と見なされ強制参加となる。
それは、バカ広いフィールドを作った初心者が叩かれる主な理由の一つだ。
なお、フィールド内にフィールドが存在した場合、そのルールが乱入アリの場合のみ、フィールドは結合する。
フィールド内で最後まで気絶せずに立っていた者へ、全参加者分の経験値が与えられ、1人でも撃破した者へもボーナスが入る。
故に溜まり場内では、定期的に広いフィールドで乱戦する事も多いそうだ。
ゾクゾクと集まった参加者は、計12名にも及んだ。
10万円の賞金だ、当然だろう。
サバイバルとなれば、幾分かは俺たちの負担も少ない。
それは彼女の狙いなのか、それとも偶然なのか、オレには判別が付けがたいところだ。
やがて文字版が表示されゲームの開始を告げた。
21 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:48:36.48 ID: dWGvb7kO0
1人を殴り飛ばして、そいつの頭上に浮かぶ「You Loose」の文字を確認した。
確認と同時、殺気を感じ取って忍び寄る敵を後ろ足で蹴り飛ばす。
遅れてビーグルが飛び掛かり、その腕を引き千切った。
巨大な狼の背に乗る少女は、気にも留めずに次の獲物を捜し求める。
その額に珠の汗を浮かべ肩で息を切らせているのは、まだ小学生ゆえだろう。
その背後に敵の姿を見て、オレは思わず叫んだ。
(,,゚Д゚)「クソガキ、後ろだ!」
(*゚ー゚)「ビーグル、Gehen!」
オレは少女に寄る相手を殴り飛ばし、犬ッコロはオレの背後へ飛び掛かる。
振り返らずにハイタッチ、次の獲物を探る。
いや、俺の殴った相手はまだ気絶していないようで、ゆらりと立ち上がるとバットを構えた。
オレとクソチビ、二人の強化の掛かったパンチを受けても頑張るのか頑丈だな。
だが、立ち上がる次の瞬間にその頭は巨大な何かで弾き飛ばされる。
オレの眼にはその何かは、人の背丈ほどの長大なナイフに見えた。
22 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:50:24.75 ID: dWGvb7kO0
鉄塊にすら見える巨大ナイフを振り回し、肩で担ぐのは赤いコートの女だった。
ハンドルネームは「ninif」で、レベルは28。
鈍く光る刀身は、厚さが握り拳程度、幅は肩幅と同じほどもあり、まるでナイフをそのまま巨大化させたようにさえ思える。
華奢な腕が、いや人間があのサイズの武器を振り回せる訳がなく、規格外のナイフを含めて振り回すその腕力も魔法によるものだろう。
彼女は心底楽しそうに笑いながら、こちらへナイフの切っ先を向ける。
(*゚∀゚)「あとは、お前達だけさ!」
(,,゚Д゚)「そうかい、じゃあテメェを片付けたら終わりか?」
(*゚∀゚)「片付ける対象が間違ってるぜ? 大丈夫、峰打ちだから、安心して10万寄越しな」
(,,゚Д゚)「ガキ連れてるからって甘く見てんじゃねぇぞ?」
(*゚∀゚)「別に甘く見てるわけじゃないさ。ただ、テメェらよりオレ様が強い事を知ってるだけよ」
ナイフを下段に構え、重たい足音を立てながら女が詰め寄る。
問題ない、路地で戦った男はこの5倍は速かった。
疲弊したクソガキの負担を増やすわけにはいかねぇ、さっさとケリをつけるか。
23 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:54:15.20 ID: dWGvb7kO0
ナイフを弾き回し蹴りを放つ、避けられると軸脚を変え二段蹴り。
振り下ろされるナイフを蹴って逸らし、距離を詰めようとこころむも、ナイフのリーチがそれを許しはしない。
幾度となく繰り返す攻防は、互角のまま続いていた。
いや、互角ではない。
幾度となく腕をへし折られ、その全てを少女に回復させてもらっていた。
応戦するビーグルも圧倒されている。
彼女の自信は過剰ではない、この女は強い、技術的にも能力的にも逸材だ。
その上、彼女の体力も特筆すべきだ。
この激しいやり取りの中、彼女はいまだ肩で息をすることなく戦闘を続けている。
その凄まじい粘り強さは確かに異常だ。
だが、それ以上に今だ笑い続けていることの異常性を恐ろしく感じる。
彼女の楽しそうな壊れた笑みは、まるで顔面に張り付いたように戦闘中剥がされることはなかった。
この女はゲームを本気で楽しんでいるのか?
迫るナイフを払いのけながら、半ば本気でそう考えるほどだった。
25 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 16:57:19.26 ID: dWGvb7kO0
――オレは奴のあらゆる身体能力と戦闘センスに"勝利する"
今まで体力を温存するために使用しなかったが、そうも言ってられなくなった。
思考が冴え渡り、踏み込む足に力が入る。
絶大な負荷が重圧となって筋肉を軋ませた。
だけど、まだ、足りない。
――オレはこの対戦に"勝利する"
全身の肉と骨が嫌な音を立て、血液が沸騰したように体が熱くなる。
拳が脚が速く速く、振られ駆ける。
殺気を感じ取る、振り下ろされた武器が遅く見える
だけど、まだ、足りねぇ。
ガキにだけいい格好させて堪るかよ。
――オレの闘争心が殺意が気合が気迫が"高まる"
自慢の魔法を全て使い切った。
息苦しくなり、軽く咳をすると液体が口いっぱいに広がった。
それはどこか懐かしい鉄の味がする。
唇の端から溢れたそれを拭う暇もなくオレは前へと進んだ。
26 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 17:00:13.62 ID: dWGvb7kO0
全力を出していると言うのに、攻防はいまだ続いていた。
戦いながら雑木林の方まで移動していて、細かい枝と落ち葉を蹴散らしながら、対峙している。
流石に赤いコートも疲弊の色が見えてきたが、まだまだ戦う事が出来るだろう
だが、オレの方は魔法で戦う気力を保っているようなものだった。
相手は防御に比重を置いた戦いを見せ、最低限の攻撃で逃げに徹している。
隙あらば放たれる反撃への対処も限界が近づいていた。
ミドルもローもナイフで防がれ、ビーグルが飛び掛りナイフでいなされる。
吐血が体力を奪い、視界が歪み始めた。
じきに格闘も続ける事が出来なくなるだろう。
その時、コートの女が枝を踏んで僅かにバランスを崩した。
勝負に出るなら今しかない。
強引な攻めだと分かりつつも、一歩前へ出る。
巨大なナイフの間合いに入り、ただガードを固めて距離を詰める。
彼女は凄惨な笑みを浮かべ、一歩下がった。
完全に武器の間合いに入ったことを知る。
振り下ろされるナイフ、だが、引く気はない。
28 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 17:02:14.95 ID: dWGvb7kO0
――オレはナイフの攻撃に"打ち勝つ"
衝撃が左腕を襲った。
魔法の発動が遅かったのか、快音が腕を響いて耳に届く。
大丈夫、衝撃には耐え転んではいない。
問題ない。まだ進める。
さらに前へ進み、俺の間合いに相手を収める。
痛みなど感じる暇はなかった。
全てを掛けた渾身の一撃。
突如、相手の足元が大きく膨れ上がり、高く彼女は跳ねる。
無情にも拳は空を切った。
弾丸のような影が視界の端を掠める。
その獣は落下するコートの女に飛びつこうとするも、ナイフで軽く弾かれる。
今距離を取られるのはまずい。
弾かれ、元の位置に戻される獣の首輪を掴み、
――この犬の戦闘能力を"高める"
コートの女へ投げ返す。
遅れてオレも駆け寄り、着地と共に犬を払いのけた女は、目の前に迫った。
犬を払いのけた腕を返すことは出来ず、オレの拳は女の腹部へ吸い込まれる。
勝利は貰った。
29 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 17:04:18.94 ID: dWGvb7kO0
目の前に現れる「you win」の文字を見ると安堵感が身を包んだ。
情けなく崩れる感覚に身を委ね、今はその場に座り込む。
女は3メートルも跳ねて、リングアウトしていた。
場外した後も立ち上がる彼女に驚くが、勝った者が正義だ。
コートの女はこちらへナイフを構え、やがて敗北に気づいて雑木へと怒りをぶつけていた。
(*゚ー゚)「ルール模擬戦、ゲーム開始」
クソガキの声が聞こえて、全身を温かい感触が包んだ。
口元を拭えば、赤い血が袖にこびりつく。
折れていた左腕は元に戻り、泡を吹いていた犬も元気に跳ね回る。
雑木林に吹き込む風が、火照った体に心地よかった。
(*゚ー゚)「おねーさんもおいで、heileで癒してあげる」
彼女はため息をついて、こちらへと寄ってきた。
ズリズリと引きずるナイフは薄緑の光を放ち、一般的なサイズになるとコートの中へと収納される。
(;*゚ー゚)「疲れたわね、ほら、並んで」
腕を引きちぎられた男にも声を掛け、その傷を癒す。
他にも幾人かのボランティアらしい人たちが、負傷の酷いプレイヤーを回復させていた。
31 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 17:07:22.67 ID: dWGvb7kO0
(*゚∀゚)「疲れただろ? 飴さんいるかいっ」
治療を終えたコートの女が、へたり込むオレの隣に座りつつ声を掛けてきた。
「いらん」と返すが彼女は無理やりオレに飴を押し付け、かがみ込む。
仕方なく、木の幹へ預けていた背をずらして、彼女に背もたれを提供した。
「ありがと」と告げられ、彼女と肩を並べる形になる。
(*゚∀゚)「それにしてもあのお嬢ちゃん、スタミナあるね」
(,,゚Д゚)「あん?」
(*゚∀゚)「治療する類の魔法はすごく疲れるもんだ」
(,,゚Д゚)「みたいだな」
(*゚∀゚)「小学生だろ? アンタより体力あるんじゃないかい?」
笑いながら告げるが、献身的に治療を続ける彼女を見ていると、冗談とは思えない節もある。
オレの魔法は強い。最強と言っても過言でない"勝利する"がある。
だが、オレはどうだ? その回答はすぐに浮かぶことなく、頭の中で渦巻く。
……オレはあんなガキにも負けるのかよ。
風で舞い上がる落ち葉を見ながら、思索はゆっくりと進む。
33 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 17:09:38.82 ID: dWGvb7kO0
治療を終えたらしいウチのお嬢さんは、しばらく男達と談笑するとこちらへと歩いてきた。
ビーグルがキャンキャンうるさく吼えながら、少女の足元を駆け回っている。
(;*゚ー゚)「疲れたわ」
(,,゚Д゚)「てめぇは頑張りすぎなんだよ」
少女が来たのを見て、赤コートの女は手を振り去っていった。
少女の魔法は代償を回復できないのか、まだ体の芯がズキズキと痛む。
脈打つような痛みに身を任せ、呆然と色が変わり始めた雑木を眺めているとガキが隣に腰掛けた。
押し付けられた飴玉を差し出すと、少女は柔らかく微笑んでそれを頬張った。
時折、ハムスターのように頬を膨らませるのを眺めながら、ただ無言で疲れを癒す。
季節の節目特有の冷たい風が、火照った体に心地よかった。
34 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 17:11:11.88 ID: dWGvb7kO0
(*゚ー゚)「猫さん、あなた意外と強いのね」
(,,゚Д゚)「はっ今更かよ」
意外と強いのは、テメェのほうだ。
(*゚ー゚)「ふふ、でも、武器使った方が良いんじゃなくて?」
(,,゚Д゚)「男の武器は拳だろ?」
武器か、いい考えかも知れない。
確かにオレは、自分の戦闘能力に限界を感じいていた。
格闘を挑む輩は、単なる肉体強化以上の能力を持っていることも多い。
Lv30程度の応用方法を見つけた奴らは、その強さの次元が異なる。
今のオレは、その差を埋める何かが欲しかった。
(* ー )「ねぇ……猫さん……」
(,,゚Д゚)「なんだよ? ……あん?」
回復魔法の乱発で疲れたのだろうか?
少女は俺へ問い掛けたまま、幹へ体を預けて寝息を立てていた。
思わず零れるため息は、なにへ向けたものだろう?
オレは上着を脱いで彼女の膝に掛け、その隣でまた雑木林を眺めながら思考に溺れていった。
35 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 17:12:59.80 ID: dWGvb7kO0
どれくらい立っただろうか?
寝入ってしまった彼女をよそに、携帯電話でアイテム一覧を眺めていると、遠くから声が聞こえた。
まるでそれは警告のように、慌てた感情を包み込む叫び声だった。
その声に休憩していた奴らが慌てて顔を上げ、身支度を整える。
そのメンツにはオレも例外ではなかった。
(,,゚Д゚)「おい、クソガキ! 起きろ、警察だ!」
(*つー-)「なに? どうしたの? 猫さん」
寝惚ける少女に慌てる気配は見えず、仕方なく強引に少女を背負う。
その子猫のような軽さと大きさに驚くが、やはり人間は走る分には重たい。
走り出すと後ろからビーグルがついて来るのが、足音でわかった。
対戦していた奴らも、慌ててフィールドから飛び出て強制終了させる。
人の流れに身を任せて走ると、唐突にフィールドが広がった。
乱入扱いなのか、ゲームのルールが文字板に表示される。
(,,゚Д゚)「模擬戦? フィールド範囲がやけにデカイな。警察を巻くために使えってことか……」
筋力を高めると、少女が急に軽くなった。
強引な速さと揺れに驚いたのか、背中でもぞもぞと少女が動き回る。
やがて、やっと起きたお姫様は背中から下ろす様に喚いた。
37 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 17:13:45.39 ID: dWGvb7kO0
少女の手を引き、しばらく走ると雑木林が開け、鉄塔が現れた。
その下をくぐり、フェンスへと急ぐ。
この基地跡の無駄に広い敷地は、警邏を巻くのに向く反面、ゴールが遠い。
鈍い痛みが脇腹を襲い、息が荒くなる。
クソガキは、小学生だと言うのに汗一つかかずに俺の後をついている。
普段から走っているのだろうか?
柔らかい腐葉土が足元を不安定にさせて、普段以上に疲れる。
靴の中に入った土が堪らなく不快だが、今立ち止まるのは危険だ。
しばらく走ると、前方に人の気配を感じ取った。
プレイヤー? 警察? それを探ろうと木の陰に隠れ、様子を伺う。
その時、目の前に文字板が現れた。
それは今までのように簡素な文が載るものではなく、大量の文章がみっちりと書き込まれていた。
(;゚Д゚)「このタイミングで……マジかよ」
その文字板は、イベントの開始を告げるものだった。
( ^ω^)達はゲームクリアを目指すようです
(,,゚Д゚)SIDE・2 了
38 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 17:16:04.80 ID: dWGvb7kO0
注釈
"korpulentってcorpulentじゃない? "
mjd?
確認してくる
"Gehen Sie voran"
英語でいうGO Ahead
日本語だと突撃や前進
"なんか、前回の投下から随分と遅くないかい?"
http://imepita.jp/20071014/604600
これ描いてたら、遅くなった
( ^ω^)SIDEから、ツン
40 名前: ◆xmNFXyaAwA Mail: 投稿日: 2007/10/14(日) 17:23:00.77 ID: dWGvb7kO0
korpulent=stout
stoutは筋肉質的な太ったや勇敢な活発な、頑丈な逞しい
といった意味だから、肥満体質じゃない
corpulent
コッチはデブって意味
以下あるならば質疑応答