80 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:43:36.78 ID: 25QcKXsa0
リーマン風の男が、炎の塊のようなものを手の上に燃え上がらせる。
それが野球ボールほどの大きさになると、男はこちらへと投げつけてきやがった。
高校時代は野球でもしていたのだろう、とても素人とは思えない綺麗なフォームだ。
けれど
――オレの拳はあの炎に"打ち勝つ"
心の内で言葉を呟き、頭の中に詳細に炎を吹き飛ばすイメージを浮かべる。
裏拳で飛んでくる炎を打ち落とした。
火球が散り散りに砕け、四散する火の子の向こうに男の焦りが浮かぶ。
(,,゚Д゚)「よえぇなぁ」
使う魔法も程度が低く、この程度で動揺する心も弱い、かといって工夫する意欲も見えない。
オレが頭を軽く掻いただけで、男は怯え震える。
小物が……うぜぇ。
(♯゚Д゚)「手ぇ抜いてンじゃねぇぞ、ゴルァ!!」
83 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:44:52.72 ID: 25QcKXsa0
(,,゚Д゚)SIDE・1
――オレの身体能力が限界まで"高まる"
全身の筋肉の盛り上がる感触と、魔法を使った反動が心地いい。
急激に繊細になった感覚が、焦げた空気の香ばしい匂いを的確に拾い上げる。
軽くその場で跳ねて全身の調子を確かめて、狩るべき獲物を睨んだ。
その準備運動の間に放たれた炎の球体を、軽いステップでかわす。
他の魔法を使うまでもねぇな。
一応火事が起きないように、"打ち勝つ"でその辺の燃えそうなものに耐火性を持たせた。
その反動から全身に負荷が掛かり、スタミナの消費がランニング程度にまで増してきた。
疲れる前に、終わらせるか……
84 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:46:08.68 ID: 25QcKXsa0
男の頭を掴み、ビルの壁に叩きつけると重たい手応えが返ってきた。
パラパラと砕けた塗料と男の血が飛び散って、周囲を汚す。
汚ねぇ野郎だ、学制服汚れちまうじゃねぇか。
透明なガラス板のようなものが現れて、俺の勝利を告げる。
プレイヤーにだけ見えるこの文字板を一瞥し、リーマンの頭を離した。
おっさんは力なく崩れるが、自力でなんとかするだろうとその場に捨て置く。
ケータイで経験値が加算されたことを確認し、ゲーセンに向かう。
22レベルまで、あと同レベル2、3人と言ったところだろう。
今日中にレベルアップ出来るだろうか?
86 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:47:44.75 ID: 25QcKXsa0
近所のゲーセンは、この辺一帯のプレイヤー専属の溜まり場になっていた。
この場所は、レベルの近い者同士、自然と集まって形成されたらしい。
ゲーセンの迷惑にならないよう、いくつかの暗黙のルールが出来ていた。
自分のレベルに見合うプレイヤーを見つけたら、対戦を申し込んで人気のない場所でやりあう。
外でのゴタゴタは、ゲーセン内に持ち込まない。
パーティを組んでる奴は、初めから一団になっておく。
可能な限り、プライベートには干渉しない。
これが全てじゃないし、そもそも明確に決められたことではない。
けれど、破ればここに長居は出来ない規律だ。
俺もそれに従うことにしている。
(,,゚Д゚)「あん?」
ゲーセンで次の相手を物色していると何か空気が変わるのを感じた。
静かになったのだが、単純にそれだけではない。
そこかしこでプレイヤー達が声を漏らし、だのに出来る限り声を潜めるもんだから、やに筐体の五月蝿さが目立つ。
それは、入り口の方から広がり、アンブロプレイヤーだけでなく、一般人にも気まずさのようなそれは伝播しつつあった。
88 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:50:14.18 ID: 25QcKXsa0
(,,゚Д゚)「なにがどうしたんだ?」
手短なプレイヤーに声をかけると、出来る限り声を潜めて応対してくれた。
(`・ω・´)「どうやら、かなりの高レベルがきたみたいだ」
(,,゚Д゚)「へぇ」
釣られてオレも声のボリュームを落とす。
偶然声掛けた相手は、シャキンと呼ばれるこのゲーセンでは有名な顔役的存在だった。
彼の目は平静を装っているようで、よく見れば怯えがその奥に潜んでいるのが分かる。
つまらない虚栄が彼に背伸びをさせているのか、いやLv62の彼を怯えさせるほど凄まじいと言うべきか?
いずれにしろ、興味が頭をもたげて体を突き動かす事実は揺るぎない。
(`・ω・´)「……どこにいくんだい?」
(,,゚Д゚)「顔見てくる」
シャキンが止めようと何か言ってるのは聞こえたが、顔見るだけに文句は言わせねぇよ。
まあ、顔見るだけじゃないかもしんねーけどよ。
91 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:54:56.30 ID: 25QcKXsa0
その高レベルは、二人組みだった。
年の頃は、大学生だろうか? 挑戦的な顔の男と、柔和そうな男が並んでいる。
どちらも身長が高いと言うわけでもないのに、妙にガッシリとして風格と言うに相応しい何かを持っていた。
( ・∀・)「経験値の足しになる奴らは……居ないか」
( ´∀`)「そうモナね。適当に選ぶモナ」
選ぶと言う声に周囲がコソコソと視線を隠す。
おいおい、何でこのゲームやってんだお前ら? 強い奴と喧嘩してぇからじゃねぇのかよ?
なにより、こいつらを倒せば、経験値は膨大な量が手に入るはずだ。今ならレベルがあと3は上がるかも知れない。
なにしろこいつらは、双方共にLv200越えの化け物だ。
目線を逸らさず、むしろ、ガン飛ばすように睨む。
すぐに相手は気が付いて、こちらへと歩み寄ってきた。
( ´∀`)「……やるモナ?」
(,,゚Д゚)「当然だ、ゴルァ」
( ・∀・)「……覚悟は出来てるようだな。こいよ」
このゲームは、低レベルはハイリスク・ノーリターンで相手にしてくれないプレイヤーも多い。
だが、それも杞憂に終わり拍子抜けに事は運んだ。大丈夫、誰が相手だろうと俺は絶対に勝つ。
94 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:56:41.90 ID: 25QcKXsa0
少し歩いて訪れたのは、比較的近所にある廃工場だった。
ここは広く、またどんなに暴れても被害がでないので、使う能力によっては好まれる場所だ。
二人組の男達はゆるりと振り返り、こちらと10メートルほどの距離をとる。
( ´∀`)「準備はいいモナ? ルールは基本でいくモナ」
乱入可、フィールド範囲半径500m、その他指定無しがこのゲームのデフォルト設定だ。
何か事情がないなら、普通はこのルールで執り行う。
特に異論もなく、俺は首を縦に振って肯定を示した。
2対1と言う状況は、ソロプレイヤーなら確実に遭遇する。
俺はソロだが、こいつらを同時に相手しても勝つ自信があった。
相手も理解しているのだろう、特に忠言する様子もなく、俺達は冷たいコンクリに囲まれて向かいあった。
( ・∀・)「ゲーム、開始だ」
GO!と刻まれたガラス板が消える瞬間を計って、
――オレの身体能力が"高まる"
と、心の内で告げる。
メキメキと全身の筋力と感覚が冴え上がるのを感じながら、ひっしと前を見た。
なにが来る? レベル213と209の実力見せてくれよ?
(,,゚Д゚)「(ま、俺は様子見なんかせずに最初から全力で行くけどな!)」
――オレはこの勝負に"勝利する"
この魔法がある限り、オレは絶対に負けねぇ!
体の隅々までに勝利の自信が行き渡り、思考が勝つことだけを極端に突き詰める。
100 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:00:08.75 ID: 25QcKXsa0
全身に掛かる絶大な負荷。重圧と言う形で現れた代償を受け止めて、オレは一気に駆け寄る。
向こうはそれを一瞥し、Lv209の男、MO・narが相棒を盾にするように一歩引いた。
恐らく、レベルが高い方が前衛、隠れた男は支援だ。
なら、支援から崩してイニシアチヴを奪う。
――オレは隠れた男に攻撃できないと言う運命に"打ち勝つ"。
視界が切り替わる。
魔法の発生と同時、俺は強制的に転移して、奴らの後ろに回りこんだ。
( ・∀・)「……移動能力か」
(,,゚Д゚)「ちげーよ、バーカ」
101 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:03:24.26 ID: 25QcKXsa0
踏み込む足が、埃まみれのコンクリをしっかりと捉えた。
支援の男をブチ抜く為に右の拳が高く掲げられる。
その時、ふと涌いた違和感、奴ら足元にチラリとオレンジに光る何かが浮かぶのが見えた。
それは何か揺らめきのようn
――オレの身体はあらゆる火炎と高熱に"打ち勝つ"
灼熱と言うべきだろう、扇状に広がる白んだ炎がフィールドの外に届かんばかりに荒れ狂う。
それは一瞬で過ぎ去ったが、魔法なしでは高熱に意識を奪われていただろう。
劫火に耐えると、遅れて息苦しさが襲ってくる。
横っ飛びに燃き尽くされた空間から飛び出ると、焼けた匂いが鼻についた。
(,,゚Д゚)「なんだ、これ……」
やっと一息ついて、濃厚な酸素を肺に押し込む。
男達は、余裕ある動作でこちらを振り返っていた。
103 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:05:28.83 ID: 25QcKXsa0
( ・∀・)「判断はなかなかだな」
( ´∀`)「防御も移動も出来る、動きから身体強化もあって、恐らく攻撃力もあるモナ」
( ・∀・)「万能か、まあソロだからな」
指先に力が入らないのは、恐怖からだろうか?
いや、魔法の代償に決まってる。
息を整える。全身を襲う重圧には、まだ耐えられる。
数秒しか使っていないというのに、この魔法はオレから体力を奪う。
大丈夫、俺はこいつらに絶対勝つ。
( ・∀・)「その震えと態度、心理系能力もあるのか? 負荷デカいだろ?」
(,,゚Д゚)「あ? てめぇにオレの述語教えるかよ」
( ・∀・)「じゃあ、死なないように注意しとけ、俺は手加減できねぇからな」
105 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:06:43.10 ID: 25QcKXsa0
このゲームは、心理状況が魔法へ強く影響の出るゲームだ。
言葉巧みに相手の不安を煽り、魔法の威力減衰を狙う輩もいる。
つまり、明確に勝利のイメージを掴めば、それに従い自分も強くなる。
このゲームで、絶対の自信を与える心理系の魔法は、最強の類に属する一つと言えよう。
使い方を変えれば、心理以外にも応用が効くのも特徴だ。
ふと奴らの足元を見れば、コンクリが黒く焦げ一部がガラス状になっているのが映った
。
どんだけ強力なんだ、糞ッタレ。
炎はどっちの魔法だ? 次を防御したら体力が持たねぇ。
威力が高ければ、それを防ぐ姿は想像が難しくなる。
蝋燭の炎を揉み消す姿は想像できても、燃え盛るキャンプファイヤーを消す姿は想像に難い。
そこから発生するのは、通常以上の絶大な負荷だ。
108 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:07:47.43 ID: 25QcKXsa0
前衛の男が何か視線を向けると、柔和な男がコクリと頷いてどこから出したのか、木刀を手渡す。
それから、一言告げて隣に現れた赤黒いものに飛び乗る。
長く野太い首に厳つい面構え、爬虫類のような鱗と頑健な四肢、甲殻に覆われた背中と長い尾、途轍もなく大きな翼膜を持つ赤黒い何かは――ドラゴン?
俺の眼には、確かにその姿は幻獣に見えた。
どんな魔法だかわからないが、生き物を作る能力は確実に強力な類のそれだ。
( ・∀・)「コイツなら、俺一人で十分だ。先に帰ってな」
( ´∀`)「…………では、任せたモナ」
それだけの言葉を交わすと、ドラゴンに乗る男は差し出された手を軽く叩いて廃工場を後にする。
ただそれだけの仕草から見える二人の信頼、そして俺を雑魚だと見下すその姿勢、両方が俺を苛立たせて、拳を痛いほどに固く握り潰す。
(,,゚Д゚)「ぜってぇ……コロス」
( ・∀・)「あん?」
111 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:10:04.64 ID: 25QcKXsa0
彼我の距離は8メートル弱、走れば4歩といったところだ。
落ちていた小石を蹴飛ばして威嚇し、一気に走って距離を詰める。
彼は小石を木刀で弾k
――オレの蹴飛ばした小石が木刀に弾かれる運命に"打ち勝つ"。
こうとしたが、それは外れ、右頬に当たって注意を殺いだ。
その隙を最大まで利用し、さらに距離を縮める。
残りの距離は後3歩。
残り2歩。
彼の周囲を陽炎が揺れて、僅かな火の粉が小さく踊る。
――オレは自らを傷つけるあらゆる運命に"打ち勝つ"。
あの白い火炎を恐れずに、ただ相手を見つめてひたすらに突き進む。
灼熱の火炎が工場全てを一瞬で焼き尽くした。
炎のカーテンを抜け、唯一火の手が訪れない相手周辺の空間へ飛び込む。
魔法で強化された筋力全てを伝えて、固く握った右の拳が放たれる。
( ・∀・)「突撃しか能がない。愚鈍だな」
113 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:12:45.01 ID: 25QcKXsa0
左、袈裟に振り下ろされる木刀が見える。
魔法は間に合わない、慌てて飛びのいた顔面スレスレを木刀の切っ先が過ぎて、そこから生まれる鋭い風が頬を冷たく撫でた。
炎が酸素を使い果たした世界に戻されるも足はすぐに前へ、たった一歩の距離を元に戻す。
そのまま放った左の拳は引いた男を捕らえず、脇腹を木刀が抉る。
それでも脚は前に進み、放った右は小手打ちで弾かれた。
まだまだ、足は進む。
進み、目に映る光景ぐらりと揺れた。
……幾つも積み重なった魔法の代償が限界を超えて蝕み、オレの膝を折らせた。
男が回避を止めて、ゆっくりとこちらへ歩み寄る。
陽炎なのか、あまりの疲れか、視界がぐらぐらと揺れた。
オレの前で動いていた靴が動きを止める。
止めを刺すため木刀を振り上げる表情は、どこか落胆の色が浮かんで見えた。
116 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:14:41.64 ID: 25QcKXsa0
( ・∀・)「お前、しょっぱなから飛ばしすぎ、心理系の魔法は窮地から脱するためだ。スタミナもたねぇぞ? おい」
(,,゚Д゚)「まぁ……まっだだっぁあぁ!」
――オレの右手は高熱に"打ち勝つ"!
ガラスのように透明になったコンクリは凄まじい高熱に晒され、脆くボロボロと崩れていた。
耐熱強化した片手でかき集め、上段に振り上げた男へ投げつける。
そして、立ち上がり様に打ち出したボディブローは、的確に相手の腹部を捉えた。
奴は自身の炎に強い耐性がない。
例え自らが生み出した火炎であろうと、耐熱や耐火の魔法がなければその身を焦がす。
恐らくはそれに近い防護を施してあるのだろう。
だがそれは、工場を炎で包んだ時に自らを炎から遠ざけなければならない程度のものだ。
ならば、高熱に晒されたコンクリートに多少の効果を期待してもいい。
最低目潰しにはなる。
119 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:17:00.40 ID: 25QcKXsa0
しかし、コンクリートガラスの効果は、本当に目潰ししか意味を成さなかった。
強化された拳は脇腹に衝突し、しかし奴との距離を6メートルほど作るだけに留まる。
奴は自らの炎を蹴散らし吹き飛んだが、それでも何事もないかのように立ち上がる。
( ・∀・)「いってぇなぁ、糞」
埃を払い平然とする様子から、彼が自身を防護する魔法を仕掛けているのが解る。
恐らく対熱以外にも対衝撃、もっとあるのか? 厄介だ。
( ・∀・)「ま、一撃与えたのは褒めてやるよ」
(,,゚Д゚)「ハッ! 舐めんな」
( ・∀・)「耐えてくれよ? 死ぬのはてめぇの勝手だが、胸糞悪い死体は見たくねぇ」
息が上がって、憎まれ口を叩くことはおろか、この場に立つことさえ正直限界だ。
その朦朧と揺れる視界の中で、奴はゆっくりと木刀を肩の高さまで水平に掲げた。
真横を向く切っ先に、火の粉が一つまた一つと渦巻いて、やがて木刀の刀身に工場で燻っていた全ての炎が吸い寄せられる。
122 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:19:27.67 ID: 25QcKXsa0
それは巨大な炎の竜巻となり、次第に収束し、木刀は渦巻く炎の剣と化した。
赤やオレンジではなく青白い炎は、先ほど以上の熱量が籠もり、工場の大気をその渦に合わせて、グルグルと揺らめかせる。
奴は炎の剣の完成を待ってから、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
凄まじい熱が、魔法の防護を抜けて肌を焦がす。
ゴオォ! と振り上げた剣が空気を呑む音が聞こえた。
互いの距離は、まだ4メートルは残っている。
――オレはあの炎剣の熱と炎に"打ち勝つ"!
奴はこちらへ剣を振り下ろしながら、収束の魔法を解いた。
脚は震えなんとか跳ねるが避けきるには至らず、オレは瞬く間に炎の嵐に翻弄された。
異常なほどの熱量が空気を吐き出し、生み出された突風が体を弾き飛ばす。
魔法の負荷は耐えがたい重圧となって圧し掛かり、オレの意識はその代償に飲まれて
そして消えた。
124 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:21:46.91 ID: 25QcKXsa0
誰かの声が聞こえ、頬を軽い衝撃が襲う。
薄っすらと目を開けると、眩しい陽光が目を突き刺した。
(;*゚ー゚)「ねぇ! 大丈夫!?」
(,,゚Д゚)「畜生まだだ……」
掠れた酷い声が自分の喉から絞り出る。
オレは無様に廃工場の熱い床を転がっていた。
全身を襲う痛み、それは右半身に集中しているが、不思議と腕はなにも感じない。
まだいける、きっとまだ体は動く。
体を起こそうと力を入れると、炭化した黒い何かがボロボロと崩れて顔にかかった。
(;*゚ー゚)「ねぇ! 全身酷い火傷よ?」
(,,゚Д゚)「この程度の痛み、まだ耐えられる。オレは負けちゃいねぇ……」
(;*゚ー゚)「痛くないならもっとヤバイから、動いちゃダメ!」
叱咤する声の主に気が付いて、オレは目線だけをそちらへ向けた。
隣に片膝ついたガキが、オレの体を揺すっている。
頭上の表示がLv19 Sheiと書いてあるのが見えた。
126 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:23:42.23 ID: 25QcKXsa0
冷静になった頭が状況をゆっくりと咀嚼する。
ああ、そうか負けたのか、糞ッタレ。
(*゚ー゚)「あなたはゲームで負けたの、モララー相手によく頑張ったわよ」
ガキは体躯も小さく、まだランドセルを背負っているような年齢だった。
だが、それでも彼女は頭上に表示がある、これでも一端のプレイヤーなのだろう。
(*゚ー゚)「ねえ、どうする? もうすぐあなた死ぬよ?」
は? 何言ってやがんだこのガキは……
ガキの分際でオレを諌める言葉を無視し、強引に体を引き起こす。
左腕は存外にいう事を聞いてくれ、上半身だけを起した姿勢になる。
そのとき、妙に動かない右腕に猛烈な違和感を感じて、ふとそちらを見た。
それはところどころ、オレンジに焼けて真っ黒く染まっていた。
右腕はまるで痺れた時のように、感触が断絶している。
それでも何とか動く上腕で持ち上げると、そのまま肘から下がボロボロと崩れ落ちた。
目が醒めた時に顔にかかった何かは、焦げたオレの前髪だった。
128 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:26:01.04 ID: 25QcKXsa0
(,,Д)「ウガあぁあああぁああぁぁぁあぁぁぁああ!!」
今まで感じなかった痛烈な痛みが、思い出したように右半身を襲う。
思わず左腕で抱えると、腕は脆く崩れ、白く飛び出た骨が二の腕から覗いた。
脳裏に何かが、白くスパークする感触。
それは今まで感じたどの痛みをも超えて、右腕から全身へと複雑に感染する。
右足の感触も不思議と無いが、恐ろしくてそれを直視できない。
(,,Д)「アッがっ……あぐっ……ガッハ」
(*゚ー゚)「治してあげようか?」
少女の声もあまりの痛みにどこか遠く聞こえた。
でもその声は、急に感情を殺したように冷たく感じた。
(*゚ー゚)「私の魔法なら、それを治せるよ? でも、条件があるの」
(,,Д)「グフッ……があ……フゥフゥ……」
だが、凄惨な痛みからくる錯乱とアンバランスな冷静さの所為だろうか?
次第にその声は妙な現実味を帯びて、オレの耳朶をはっきりと叩くようになる。
普段ならガキの小生意気な戯言と吐き捨てる言葉が、何故か心強く、悪魔の契約じみて響く。
(*゚ー゚)「私とパーティを組んで?」
オレは崩れた腕を強く押さえながら、涙の浮かぶ瞳でそのガキをただ見ていた。
130 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:28:28.94 ID: 25QcKXsa0
確かにこのガキの言う通り、オレはこのままでは死ぬ。
ポケットの携帯電話は、先ほどの火炎に飲まれて消し飛んで、救急車を呼ぶことも侭ならない。
(*゚ー゚)「あのモララーにその低レベルで一撃与えるなんて、素晴らしいわ」
こちらの痛みに苦しむ様など、当然のように無視して彼女は続ける。
見ていたわけか、乱入しないようフィールドの外から。
そして、ソロ狩りに限界を感じているのだろう、彼女はオレの命を餌に取引を企んだ訳か。
このガキの年齢では、パーティを組んでくれるのはロリコンくらいだろう。
パーティを組んだプレイヤーは経験値をレベルに準じて分け合う。
つまり、相棒が負ければ自分も下がり、勝ててもレベルが低いほうに多く経験値を奪われる。
パーティは4人が限界だが、そこまで大きなパーティを見かけないのは、経験値が見合わなくなるからだ。
こんなガキんちょとパーティを組んだところで、メリットは少ないはずだ。
132 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:30:42.50 ID: 25QcKXsa0
(,,Д)「……解った、組もう。ぜぇ……だから早く治せ」
だがオレは、コイツとパーティを組んでもいいような気分になっていた。
別にオレに幼女趣味はないし、痛みで判断が狂ったわけでもない。
なんでかは判らないが、こいつの態度にそういった気分にさせる何かを感じた。
錯乱した脳みそが、何故かそれだけを伝える。
なにより、今ココでコイツとパーティを組まなければオレが死ぬ。
(*゚ー゚)「まずは申請が先ね? 治した後に襲われても困るわ」
ガキの癖に用意周到だな。
早くしないと、オレもう……やば、いぜ?
彼女はポケットから携帯を取り出し、公式ページでパーティ申請を行う。
オレのIDを聞いて、打ち込み、通信画面に切り替わったのを見届けてから、改めてこちらに向き直す。
(*゚ー゚)「ルール模擬戦、ゲーム開始」
経験値変動なしのルールが宣言されて、フィールドが広がり、ゲーム開始が宣言される。
クラクラと揺れる意識を留めながら、彼女と向き合った。
133 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:33:59.87 ID: 25QcKXsa0
(*゚ー゚)「私の能力は、"heile"よ」
(,,Д)「な……に語……?」
(*゚ー゚)「ドイツ語、ちょっと前までドイツに居たのよ。"heile"の意味は"癒す"が近いかな?」
帰国子女か、そんなことよりも、早く怪我をなおせ。
元より辛かった息が、ドンドン苦しさを増す。
それを見て、彼女が祈るような仕草をする。
すると、全身が少し温かくなって、瞬く間に体どころか、服までもが元通りに戻っていった。
崩れたはずの右腕が小指の先まで復元し、全身の煤が取り払われる。
全身の痛みが麻酔を打ったように消え去った。
136 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:35:06.64 ID: 25QcKXsa0
彼女が使った魔法は効果覿面で全身の怪我を隅々まで取り払った。
温かみが過ぎ去ってから座ったまま、簡単に全身の調子を確かめる。
体力の方は回復していないが、危篤と言われる状況からは脱したようだ。
怪我が完治したのだ、この疲れも、明日には復活するはずだ。
少女がしっかりとこちらを見つめていた。
それは、一部のプレイヤーが稀にみせる何かを感じさせる強い瞳だ。
改めて冷静になると、オレの怪我をみて動揺せずに取引する度胸は、小学生離れしているように思う。
いや、常人離れと表現すべきか? 兎も角、このマセガキは何かおかしかった。
(*゚ー゚)「それじゃ、ヨロシクね? GIKO・Catさん。私はしぃでいいわ」
(,,゚Д゚)「オレはギコでいい」
常人離れ? 命がけの殺し合いを楽しむバカどもには基地外しか居ない。
137 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:36:49.79 ID: 25QcKXsa0
互いにハンドルネームの読みを伝えて、オレは埃を払って立ち上がる。
まだ足元はフラフラと覚束ないが、歩くだけなら問題ない。
さっさと家に帰って寝よう。
▼・ェ・▼「バウッ!」
その時、どこからかビーグル犬が駆け寄ってきた。
成犬なのだが、体の小さな犬種ゆえにとても愛らしく見える。このガキのペットだろうか?
(*゚ー゚)「そして、この子はビーグル。私の友達よ」
酷く安直な名前の犬が、こちらに頭を擦り付ける。
とても愛らしいが、ゲームの最中に連れてきたペットと言う状況から、蹴手繰りたくなる衝動に駆られた。
オレはいつの間にガキと子犬のお守りをするほど優しくなったんだ? ったく
今更ながらの後悔を胸に、オレ達は廃工場を後にした。
( ^ω^)達はゲームクリアを目指すようです
(,,゚Д゚)SIDE・1 了
140 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:38:17.09 ID: 25QcKXsa0
注釈兼、質疑応答
超大まかに説明
なんか、長くなった
物理現象に関しては大体あってると思うけど、厳密には間違ってる
詳しく知りたいなら物理専攻の大学にでも行きなさい
"バトルは強制参加じゃないの?
相手にしないとか無理だろ"
今回彼らは、溜まり場=ゲームセンター内で相手を探していた
ココで対戦するのは筐体の賠償とか、事件になったりとか、外でゲーム開始を告げないと面倒
つまり、相手がおkだして外に出ないと対戦できない
まあゲーセン出るまで待って、後ろから襲えばいいんだがな
143 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:39:32.31 ID: 25QcKXsa0
"フィールドの範囲に限界はないのか?
あとフィールドの外の物体に魔法はかけられないみたいなルールは?
さっきのサイトにあったりする?"
上から順に
限界>たぶん地球全て
フィールドの外>特にない
さっきのサイトにあったりする?>重要になったら引用する
"それは死ぬんじゃないか?"
普通に死ぬけど、魔法が辛うじて功を奏し胴体は守った
火炎は一点集中だったので、一応避けたので直撃自体は免れているはず
"打ち勝つが万能すぎね?"
言葉は曖昧な概念なので、解釈の仕方で効果を変えるのは、どの言葉であっても同様
例えば、"爆発する"であろうと、猛烈な冷気が"爆発する"と使えば凍らせることも出来る
だが、その光景をイメージできなければ、発動すらしない
ギコの"勝利する"も同様で、勝利する光景が浮かばなければ敗北する
と言う設定なので納得してくださいスイマセン
146 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:40:40.78 ID: 25QcKXsa0
"何でモララーは自分から炎を遠ざけたの?"
酸欠怖いから
"何故このような温度にギコは耐えることが出来たのか?
なのに、収束した炎に耐えることが出来なかったのか?"
ギコが無知だから
炎がコンクリをガラス質に変えるのを見て、相当な温度だと認識は出来たが、実際どの程度なのかは知識がないので認識できていない
だから、すごく高い温度という認識で、彼は比較的容易にその炎を防ぐことをイメージ出来た
ところが、炎が収束しさらに高温になったため、耐えきる自信を崩され、結果上昇した魔法の負荷に耐え切れなかったと言う理由で納得してくださいな
147 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:42:46.37 ID: 25QcKXsa0
以下、科学的なもの
マニアック要注意
"白らんだ炎"
あらゆる物質は常に光を発しており、燃焼中の物質も例外ではない
普段は遠赤外線で見えないが、高温になると色を変え、溶けた鉄や溶岩、炎や太陽がオレンジに見える原因となっている
実際に内炎を白く染めるとなると、最低でも中心部が一万度強、外炎は数千万度に達しているはず
詳しく知りたいなら、色温度や熱放射でググれ
モララーの使った炎は魔法によるモノなので、炎色や温度もプレイヤーのイメージ通りになるはず
つまり、モララーにはその程度の物理知識があるモノと推測できる
"劫火に耐えると、遅れて息苦しさ〜"
超高温の炎が酸素を使い果たしただけ
それでも燃え続けるのは、魔法だからってことで、深く考えちゃダメだ
148 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:44:10.47 ID: 25QcKXsa0
"コンクリートがガラス状〜"
コンクリとか石など、融点の非常に高い非晶物を高温に晒し、融解しきる前に空気などで冷やすとガラス質に変異する
理由はちょっと複雑なので、詳しく知りたいならガラス転移点でググれ
コンクリートの材質はセメントと砂利なので、ガラス転移点、ひいては融点は相当高いはずだが、白色になるほどの炎なら問題なく一瞬で到達するはず
以上、知ってもためにならない設定の注釈と物理講習でした
おつかれ様でした
153 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:49:27.04 ID: 25QcKXsa0
"レベルの上限とかレベルが上がることのメリットとか出てたっけ?"
多分その内でてくるよ
"一般人は自由にフィールドに出入りできるんだよな?"
そもそもゲーム自体はプレイヤーのみを認識し、プレイヤーのみが認識できる
フィールドの境界線も一般人には見えない
"魔法の反動が自分の死を大きく越える場合はどうなるんだ?"
反動だから、死ぬだけで終わるんじゃね?
159 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 03:58:19.71 ID: 25QcKXsa0
"体には影響あるみたいだけど例えばエリア内でプレイヤーが出した炎や溶けて高温なコンクリに一般人がさわるとどうなるのん"
火傷する
"設定は割と練ってるみたいだけど文章がひど過ぎる"
それは作者の脳内が酷すぎるからです
つまり仕様
162 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 04:00:30.00 ID: 25QcKXsa0
"ということは、自分の命と引き替えにものすごいことをやってのけるのは可能なわけか"
めがっさ可能
"ファンタジーには野暮な質問だが、殺しちまったら殺した方は放置して逃げんの?
てかこのゲームで死ぬともともと居なかったようになる(シャ○的)のか?"
人殴って怪我させても放置するから、殺したら逃げるしかないな
167 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 04:04:33.62 ID: 25QcKXsa0
"フィールドを地球全体にすれば能力使いまくりwww俺最強wwwwおkwwwにならね?"
出来るけど、24時間制限+スタミナ切れでその内捕まって投獄じゃね?