1 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:03:01.21 ID: 25QcKXsa0
つまらない日常を抜けて帰宅すると、僕は習慣的にパソコンの電源を入れた。
次第に慣れていく高校生活は、漫画のようなナニカがある訳ではなく。
ただ日常として、怠惰を持て余す僕の頭上を過ぎて行く。
受験に慌しい上級生も今は僕の関心事ではない。
部屋に入るなり放り投げた鞄は、ベッドの上への着陸に失敗し、音を立てて床を転げる。
起動画面を示す液晶に興味はない。
けれど鞄を直す気にもなれず、ただ怠惰な感覚に身を任せて伸びをした。
( ^ω^)「……ふぅ」
2 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:05:05.09 ID: 25QcKXsa0
ふと、学校でした下らない会話が頭をよぎる。
面白かった。けれどソレは平々凡々として、夢見た世界とは少しかけ離れていた。
今世間を騒がす事件に関わりたい、なんてそんなレベルじゃない。
別に漫画の世界が実現するなんて思っちゃいない。
けど、中学時代とは違うなにかがある気がしたのだ。
この時期が、何か特別な意味を持つんじゃないか?
そんな淡い期待が裏切られただけだ。
でも、所詮は中学の延長上にある世界だ。大して変わりなどしない。
大人が戻りたいと嘆くのも、社会はよほどツマラナイだけなのだろう。
今日もいつもと同じ、退屈だ。
4 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:07:52.23 ID: 25QcKXsa0
やがて、ガリガリと喧しかったHDDも大人しくなり、液晶はアイコンを広げて押し黙った。
僕は惰性的にブラウザを起動して、いつもの掲示板を開く。
重たいスレッド一覧が開く合間に、待つのが嫌でメーラーを起動した。
いつものように広告メールを流し読みながら、友人や重要なメールがないかを探す。
と言っても、友人のメールは大抵ケータイに送られる。
学生の僕にとって重要なメールは滅多にこない。
時たま見つける、面白そうなスパムをおちょくる方が目当てだ。
メルアドがドコから流出したのか、様々なスパムメールがメーラーを襲った。
帰宅までに届くその総数は120通程度。
メールマガジンもちょくちょく混じるが、一般的に多いほうだろう。
それらをさくさくと削除し、気になるメールを開いては稚拙なワンクリックなどをせせら笑う。
クッキーを消すだけで利用回数がリセットされた時は、腹筋が壊れるかと思った。
( ^ω^)「……お?」
その中で見つけたそれは、奇妙なメールだった。
5 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:11:06.84 ID: 25QcKXsa0
件名は、AmbrosiusGAME。本文はURLが書かれているだけだ。
広告なら紹介文でも書いてあるモノだが、ソレらしいものは見当たらない。
( ^ω^)「アムブロシ……? 読めないお」
英語の成績が常に2で固定されている僕に、この解読は少々難易度が高い。
GAME……ゲームなのだろうか?
内容すら予測できないゲームのURLを、踏む輩がいるとは思えない。
けれど、なぜだろう?
自然とマウスカーソルが画面を走り、URLに重なって青文字の下線を消す。
理由のない純粋な興味がむくむくと頭をもたげた。
いつものスパムを開く感触とは違う好奇心が心をくすぐる。
ワンクリック……いや、ブラクラだってありえるな。
……知ったことか。
カチッという軽い音をたてて、ウィンドウが切り替わった。
7 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:13:18.51 ID: 25QcKXsa0
開いたサイトは、よく見るようなゲームの登録画面だった。
軽い落胆もあったが、それでも興味の残滓が腕を突き動かす。
MMO? いや、ブラウザゲーか?
さっと利用規約を流し読んだところ、無料みたいだ。
同意すると書かれたボタンを押そうとした時、ふと注意文の一部に目が留まる。
曰く、「負傷、死亡の可能性があり――」
( ^ω^)「ちょwwwww作った奴は厨房かwwwww」
この一文を読めただけでも、収穫アリだ。
スレ立てのネタにもなるだろう。
同意のボタンを、弾くようにクリックした。
10 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:15:16.52 ID: 25QcKXsa0
さっさとルールを飛ばし、登録フォームを埋めていく。
パスにID、メルアド。本名と住所は適当でいいだろう。
( ^ω^)「(住所は海外の……赤道ケニアでいいおwww)」
ゲーム中で使うハンドルネームは、いつもと使う「BOON」と入れた。
ルールは、どうせやってりゃわかるだろう。
やってから読み返した方が、理解しやすいことも多い。
全てを埋めた画面を軽く見直して登録。確認画面でも同意。
データを送るためか、少し長い読み込みを待つ。
画面が切り替わり、登録完了の文字と表示されたのはいくつかの説明文と注意書き。
「作り出す・極め――
飛ばす。
どうせ、ゲームの能力か何かだ。
下の注意書きに説明でもついてるんだろう。
あとで、確認できる。ここまで来て焦らされてもやる気がなくなるだけだ。
さて、どんな厨ニ病なゲームが飛び出すか期待していいだろう。
12 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:17:37.76 ID: 25QcKXsa0
ついに開いた画面には、戦績とステータスの表示。
あとはいくつかのメールフォームが端っこにあるだけだ。
適当にクリックしても特にゲーム要素があるようには見えず、いまいち要領が掴めない。
ブラウザの戻るを連打しても、警告:ページの有効〜と出て、ルールを読み返すことも出来なかった。
(♯^ω^)「糞ゲー決定だお……」
なんだか、急速に興味が枯れていく。
ちょうど聞こえてきた母親の夕飯を告げる声に、僕はブラウザを閉じた。
そのまま、歯牙にも掛からず記憶の隅に追いやられ、眠る頃には掲示板で起きた事件で脳から零れ落ちていた。
13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:19:32.01 ID: 25QcKXsa0
ブレーキを鳴かせ、耳障りな異音を立てながら電車が駅のホームに滑り込む。
走行中の揺れとは違う一際大きな躍動に身を任せた。
わずかな間を挟み、軽快な音と共にドアが開く。
いつも通り風景に欠伸をしながら、人ゴミを掻き分けてホームに降り立った。
( ^ω^)「(ああ、早く帰って掲示板に行きたいお)」
自動改札に定期を押し当てて、群れながら駅を去る人々。
当然、僕もそれに従って機械の間をすり抜ける。
そのまま流されて階段下りようとした時、立ち並ぶ後頭部の中に奇妙な物を見つけた。
それは男の後姿だった。多分、学ランを見る限り僕と同じ学校。
もちろん、男の後頭部に異変はなく、それだけなら確実に見逃すような黒い頭。
けれど、その頭上には透明な板のようなものが浮いていた。
板には、白い字でアルファベットが並んでいる。
[Lv30 Georges]
( )
(;^ω^)「(なんと言う池沼……)」
しかし、どうやって固定してるのだろう? アクリル板? なにかのコスプレだろうか?
なんとなく頭を過ぎったのは、オンラインゲームのワンシーン。
そう思うと、MMOにありがちなプレイヤー名表示に見えなくもない。
こんな頭のオカシな奴が、地元に居るとは知らなかった。
15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:22:18.68 ID: 25QcKXsa0
しかし、周囲の人間は知り合いなのだろうか?
あのアクリル板に全く動じる様子もなく、彼と並ぶように階段を下りている。
階段を下りながらなんとなく観察していると、彼が階段の踊り場でふと振り返った。
目線がかち合う、音が掻き消えたような錯覚を覚える一瞬。
_
( ゚∀゚)「……」
彼は踊り場の隅まで雑踏から逃げ、じっとこちらを見つめながら鉄柱に背を預けた。
もしかして、僕を待っているのか?
生憎だが、こんな池沼に構う暇はない。
ふと、彼が振り返っても文字がこちらに向いている気がした。
裏からも同じ字が読める不思議。疑問は浮かんだが、確認はしない。
自意識過剰かも知れないが、彼がまだこちらを見ている気がしたからだ。
そう思うと、彼を視界に入れることが出来ない。
スルーを決め込み、脇を通り抜けようとすると男が声をかけてきた。
_
( ゚∀゚)「おい、ゲームしようぜ?」
面倒なことに彼の頭上のアルファベットは、いまだにこちらを見つめていた。
17 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:24:28.48 ID: 25QcKXsa0
薄汚れたビルとビルの合間。
まだ陽が沈むには時間があると言うのに、周囲は薄暗い。
見上げた青空は、コンクリートに仕切られて、スリット状に裂けて見えるだけだ。
廃棄を待つゴミの詰まったポリバケツに、鎮座する黒い猫が一声鳴いた。
僕は男に言われるがままに、どこかへ連行されていた。
強引と言うわけではなく、ただ一言「ついて来い」と言われただけだ。
学年色から3年だと分かるが、顔に見覚えはない。
カツアゲと言う言葉も浮かんだが、彼から不良と言う雰囲気は感じられない。
それは年季以外の汚れのない学生服や、厳ついとは言えない容姿が物語っていた。
だのに、男は周囲を畏怖させる、妙な風格を持って僕を先導している。
( ^ω^)「……なにか、スポーツでもやっているのかお?」
20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:26:01.60 ID: 25QcKXsa0
よく見ればガッシリとした体格は、運動する人間特有のそれだ。
特に肩から腕にかけての筋肉は、並々ならぬトレーニングの賜物だと想像に難くない。
別に声に出したつもりはなかったが、彼はチラリとこちらを見返しつつ返答する。
_
( ゚∀゚)「もしかして、ゲームは初めてか?」
しかし、その言葉は疑問に対する返答ではなく、理解しがたい質問だった。
覚えのない質問に、僕は首を傾げて返す。
彼はそれだけで何か思い当たるようだった。
_
(;゚∀゚)「レベル1だから、初心者だとは思っていたが……ルールは解るよな?」
解るよな? と言われようと、そもそも何のルールなのか心当たりがない。
彼のセリフは、統合失調症という言葉が脳裏を掠める内容だ。
頭に浮かぶ文字も、彼の言動もキチガイじみている。
けれど、不思議と彼が狂気に取り憑かれた精神病患者のようには思えなかった。
21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:29:09.98 ID: 25QcKXsa0
彼は路地を右に逸れ、僕もそれに習う。
開けた視界に少し広めの誰も居ない公園が映った。
球技で遊ぶにはちょうどいいだろう、目立つ遊具があまりない公園だ。
だからこそ目立つ掲示板には、指名手配の陰気な顔が並んでいた。
_
( ゚∀゚)「お前、ルール読み飛ばしたクチだな?」
僕の様子から何かを読み取ったのか、彼はしっかりと視線を合わせて尋ねてくる。
相変わらず理解出来ない内容だが、彼の眼には理性の光が見えた。
その返答に困り言いよどむ僕を見て、彼は僅かな逡巡の見せて
_
( ゚∀゚)「……最近、メールかなにかでゲームの登録しただろ?」
(;^ω^)「そういえば、昨日」
初めて心当たりのある質問が、男の口から漏れた。
何故知っているのか? そんな疑問が頭を過ぎるが、瞬間、男の声が僕の疑問を遮った。
23 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:30:29.49 ID: 25QcKXsa0
声は叫ぶというほどではなく、それでもはっきりと公園を響く。
('A`)「ルールはタイマン。ジョルジュ、ゲーム開始だ」
その瞬間、公園の外周より遠く、青白い光のカーテンのような何かで周囲を囲まれる。
それはオーロラのように綺麗だったが、無機質でどこか空恐ろしい感触を与えた。
叫んだ声の主は、いつの間にか公園の入り口に立っていた、冴えない男だ。
Georges、ジョルジュと読むのだろうか……?
僕らと同年代か年上だろう大学生風の男は、ジョルジュと呼ばれた男ほどではないが、随分と鍛えられた体を持っている。
彼もジョルジュ同様、頭の上に白い文字で「Lv28 Poison-Man」の文字が浮いていた。
24 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:32:15.32 ID: 25QcKXsa0
( ^ω^)「(おっ! あれは読めるお! どくおとこだお)」
_
( ゚∀゚)「残念だが、お前は辞められないゲームに参加したことになった」
ついに読めた英語にはしゃぐ間を与えず、彼が僕に告げる。
けれどその眼は、毒男を捉えて放さず、両の腕はゆっくりとファイティングポーズをとった。
('A`)「レベル1……初心者狩りかよ。カッコわりぃ」
_
( ゚∀゚)「ハッ! てめぇほど腐った根性してねぇよ。俺はゲームのルールを教えてたんだ」
('A`)「てめぇが? 見え透いた嘘はよくねぇな」
言葉を交わし終え、二人が構える。
そこへ計ったかのようなタイミングで、二人の間に「Ready」と書かれた透明な板が現れた。
気がつけば、一瞬でその文字が「GO!」へと書き変わる。
26 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:35:47.00 ID: 25QcKXsa0
脳裏に過ぎるのは、笑い飛ばした注意書き。
負傷や死亡の恐れって、冗談、だよな……?
もっと冗談のような光景が、手を伸ばせば届く距離で繰り広げられている。
毒男が人体学的にありえない速度で、ジョルジュに迫る。
学ランを脱ぎ捨てたジョルジュのシャツは、左の袖が千切ったように存在しなかった。
その剥き出しの左腕が、一瞬で丸太ほどの太さまで筋肉を付ける。
まるで肉襦袢を纏ったような左腕は、血管を浮き上がらせて更に引き締まった。
走り寄る勢いのままに毒男の繰り出した蹴りが、ジョルジュを捕らえる。
確かにそう見えた、けれども彼の蹴りは空を切り、重たい音を鳴らす。
_
( ゚∀゚)「はずれだ」
28 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:37:28.94 ID: 25QcKXsa0
いつの間にか、公園の端まで移動していた彼の左腕は、風の様なモノが包みこみ、その威容を増していた。
ジョルジュがその場で、竜巻が絡むようにも見える左腕を振りかぶる。
振り下ろす瞬間に、彼は掻き消えて毒男の背後からその拳を振るっていた。
既に移動に気が付いた毒男は、間一髪でそれをかわす。
上着を拳の生み出す突風になびかせて、振り返り様に放つ蹴り。
しかし既にその場所にジョルジュは居ない。
毒男が避けた竜巻は拳を離れ、その進路に猛威を振るいながら、埃をたて葉も花もない桜の枝を折り、ゆっくりと霧散した。
_
( ゚∀゚)「おせぇぇ! やる気あんのかぁ? ドクオちゃんよぉおぉぉ?」
いつの間にか僕の隣に立ち、毒男ことドクオを挑発するジョルジュ。
また彼の左腕に竜巻が巻きつく。
荒れ狂う暴風は、周囲の落ち葉を巻き上げて、凶器へと姿を変える。
30 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:39:16.16 ID: 25QcKXsa0
_
( ゚∀゚)「ああぁん? 弱くなっちゃったんじゃないのカナぁ? ドクオちゃあぁん!?」
先程からジョルジュと言う男が、瞬間移動しているよう見える。
相対するドクオの走りも異常なまでに速いが、ジョルジュの移動はその比ではない。
移動の予備動作もなければ走る姿勢も見せず、速さも移動という領域から逸脱していた。
また彼が兵器となった左腕を振りかぶる。
腕を振る勢いと共に、彼の姿が本当に掻き消えた。
ドクオの背後に現れ、その背を狙うように拳が振り下ろされる。
('A`)「喋りすぎだ。舌噛むぞ」
ドクオは背後を振り向かず、何かステップのように片足を強く踏みしめ、持ち前の速さで竜巻を避ける。
竜巻を避けられたジョルジュは、唐突に仰け反りその場に倒れ伏した。
32 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:42:22.80 ID: 25QcKXsa0
完全に白目を剥いたジョルジュの顎から、握りこぶしにも満たない小石が零れ落ちる。
だがそれだけで、何が遭ったのかも分からないまま、唐突に始まった戦いは同じように幕を閉じた。
残されたジョルジュの暴風が、公園の砂を抉り過ぎ去った。
降って涌いたかのように、そこにある妙に白々しい「You Win」の文字。
砂塵の向こうにドクオのうろんげな瞳が、鈍く殺気立つ。
そのままゆっくりと、ドクオがこちらへと歩み寄ってきた。
(;゚ω゚)「うあ……あっあっ……うわっあっ」
やばっ……やばいやばいやばい! 死ぬ! 殺される!!
僕はその場にへたり込んで、腰が抜けまともに動くことも叶わなかった。
上手く力の入らない腕で、彼から必死に距離をとる。
小石混じりの公園の砂利は、手で擦るには痛くてたまらなかったが、その痛みを感じる余裕などなかった。
34 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:45:51.09 ID: 25QcKXsa0
('A`)「安心しろ。初心者狩りは趣味じゃねぇし、Lv1じゃ倒す価値もねぇ」
向けられた掌の意味が解らず、ビクリと肩がこわばる。
一瞬の逡巡の後に無骨で大きなその手を掴むと、凄まじい腕力で引き上げられた。
強引に立たせられたとは言え、立てたのが不思議なほど膝が笑っていた。
目の前の男が、怖い。恐ろしくて堪らない。
喧嘩、それも訳のわからない戦いを繰り広げたこの男が、まるで人間のようには思えなかった。
('A`)「その様子だと、ルールもわからねぇみたいだな?」
知らずの内に震える膝を叱咤し、男の目を見据える。
('A`)「まあ、立ち話もなんだ。マックでも行こう」
奢らねぇぞと付け加え、半ば引きずられるように僕は公園を去った。
35 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:48:15.99 ID: 25QcKXsa0
('A`)「――とまあ、大体こんな感じか」
夕暮れ時の喧騒包むファーストショップ店内。
下校途中と思しき数人の高校生や大学生の集団、サラリーマンなどがカウンターやテーブルに群がっている。
非日常に叩きこまれた直後とは、到底思えない平和がそこに広がっていた。
ジョルジュが心配だったが、ドクオは日常茶飯事だから気にしなくていいと手を振っていた。
僕はドクオと名乗る男とテーブル席に向かい合い、ゲームとそのルールについて話を聞かせてもらった。
彼が僕に危害を加えないと分かると、何故か恐怖が過ぎ去ったのが妙におかしかった。
このゲームは、小説や漫画にありがちな人と人とで争う形式の競技だ。
ルールは単純、相手の意識を奪うか、相手をフィールドの外に出せば勝ちとなる。
公式サイトで申請すれば、パーティも組むことが可能。
38 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:49:19.43 ID: 25QcKXsa0
フィールドは、恐らくあの青白いカーテンのことだろう。
そして、恐ろしいことに、人を殺しても意識を奪うことになるらしい。
もちろん、人を殺すと何かと厄介なので忌避されるらしいが、恐ろしいことに変わりはない。
これだけでは、ただの喧嘩だ。
だが、このゲームは人々を魅了し、中毒にする不思議な力があった。
それはRPGなどで言う「スキル」や「魔法」の類を、プレイヤーはゲーム中だけ使うことが出来るというものだ。
このゲームでは、プレイヤーに応じた言葉を三種類まで魔法として使用出来る。
その言葉を用いた文章とその光景を想像することで魔法は発動する。
魔法を行使すると、代償として体に負荷がかかる。
40 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:51:44.30 ID: 25QcKXsa0
と言うことらしい。
魔法の種類はプレイヤーの数だけある、と言っても過言でないほど多く、同じ魔法を習得している人間は少ないらしい。
負荷の程度は、軽いダルさから筋肉痛、体にかかる重圧程度から、最悪死ぬこともあるそうだ。
魔法に使った文章から想像しにくいモノや魔法の範囲や効果を強くすると、負荷が強くなる。
つまり、なるべく細かい文章ほど、負荷は少なくて済む。
だが、負荷での死亡は噂の域を出ないらしいので、まず怖がる必要はないそうだ。
そして、最大の注意点が二つ、一つはプレイヤーに直接魔法を掛ける場合、相手の同意が必要なこと。
つまり、「従える」という魔法でフィールドの外に出したり、いきなり殺したりは不可能。
だが、魔法で出した爆風をぶつけて気絶させるのは可能。
さらに、傷を癒す魔法を相手に断ってから使うことは可能、とのことだ。
('A`)「この時、相手がどんな効果の魔法を使うのか把握しているも重要だ」
言い方を変えると、「今から回復魔法を使う」と言って他の効果のある魔法を使用することは出来ないのだ。
41 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:54:36.23 ID: 25QcKXsa0
もう一つの注意点は、このゲームにおけるプレイヤーのレベルはステータスに全く関係がないこと。
レベルが高くなったからと言って、魔法が強力になったりすることはない。
全ての魔法は、使用するプレイヤー自身のイメージに合わせて威力が変動する。
極端な話、レベル1でもレベル100に勝つことだってありえる。
数多く勝利すれば、プレイヤーのレベルは上がり、負ければ下がる。
だが勝利したときの経験値は、倒したプレイヤーのレベルが高いほど多く貰える。
つまり、高レベルプレイヤーほど沢山の敵に狙われることになるのだ。
だからドクオは、僕のようなレベル1を狙っても、貰える経験値が低く、倒す価値がないと判断された。
43 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:55:36.37 ID: 25QcKXsa0
ふざけたゲームだ。
ゲームバランスはむちゃくちゃで、やり直しは効かない。
命を取り合う、それも辞退が出来ないとは、ホンモノの糞ゲーだ。
( ^ω^)「……どこで、自分の魔法に使える言葉が分かるんだお?」
けれど、ルールに従わない者は、怪我をし、やがて死ぬだけと言うルールなのだから、ゲーム続行しか残されていない。
('A`)「登録した時に出ただろ? 覚えてないなら、ステータス表示でみれる」
そういえば、何か出ていた気がする。
ゲームサイトはケータイに対応してるらしいので、後で見ておこう。
ちなみに彼の使える魔法は、教えてくれなかった。
相手がどんな魔法を使うのかは判らない。
それを予測し、勝つ方法を編み出すことも勝利へと繋がる。
つまり、多くのプレイヤーは自らの魔法を隠す傾向にあるし、当然俺もお前に教えることは出来ない。
とのことだ。
彼は、僕とパーティを組む気もないらしい。
45 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 01:57:42.75 ID: 25QcKXsa0
('A`)「他に質問はあるか?」
( ^ω^)「いくつもありますお」
「好きなだけ付き合うぜ?」と、彼は言葉を促す。
( ^ω^)「なんで、こんな危ないゲームをするんだお?」
スキルが使える。これは魅力的だ。
今も頭の上にアルファベットを並べたリーマン風の男が脇を過ぎた。
こちらをチラリと見て、すぐに視線を逸らす。
対戦する気はないようだが、つまりは稀にすれ違うほどにこのゲームの人口は多い。
だが、命がけの喧嘩をし、血反吐吐き気絶しながらでも魔法を使いたいと思えるほど、多くの人を魅了するとは思えない。
('A`)「まず、このゲームは、退会することが出来ない」
(;^ω^)「それは……聞きましたお」
47 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:00:08.13 ID: 25QcKXsa0
('A`)「だから、そもそもやめることが出来ない。多分、コレが一番の理由」
一番……つまり、まだゲームを辞められない。いや、もしかすると辞めたくない理由があるのだろう。
皆を説得し、全員でゲームを放棄すると言う魂胆は、あえなく潰えた
('A`)「対戦に勝てば、経験値と同じ分だけポイントが手に入る。そのポイントは、様々なものに使えるんだ」
そう言って、彼はこちらに自分のケータイの画面を見せた。
そこに並んでいるのは、数字といくつかの物品。
時計やネックレスと言った雑貨から、ナイフや警棒のような物騒なモノまである。
さらに、1ポイントとかかれた隣には、¥の文字が見えた。
( ^ω^)「……カネ」
('A`)「つまりはそういうことだ」
少しケータイ画面に注意が移る。
そこには、プレイヤーが近づくと光る時計、事件やルール変更などを知らせるメールマガジン。
少々高価だが周辺プレイヤーの位置が分かるレーダーなど、様々な商品が並んでいた。
ドクオの腕に付いている時計は、どうやらポイントで購入した物のようだ。
50 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:02:03.75 ID: 25QcKXsa0
ドクオが一言断ってタバコを咥えた。
ゆっくりと吐き出された紫煙の行方を少し目で追ってから、また僕は尋ねた。
( ^ω^)「本当にそれだけで、こんなゲームをやるのかお?」
('A`)「もちろん、それだけじゃない。やむを得ぬ事情は、幾らだってある」
彼が言うには、このゲームの仕様に問題があるのだという。
まず、ゲーム開始は片方が宣言するだけで始まる。
宣言した方が、フィールドの広さや乱入、経験値変動のない模擬戦などある程度のルールを指定することが出来る。
つまり相手に拒否権はなく、辞める為にはフィールドの外に逃げなくてならない。
問題は気絶させた方が、貰える経験値が高い点だ。
中には、初心者狩りをメインに行うDQNも居る。
彼らは低レベルプレイヤーを見つけると、異常な範囲のフィールドでゲームを始め、集団でリンチしてしまうらしい。
('A`)「一応、このゲームは24時間置かないと同じプレイヤーと続けての戦闘は出来ない。それに、24時間以上長引くゲームは引き分けになるらしい」
( ^ω^)「その程度じゃ、抑止力は少ないに決まってるお」
僕の独白に、ドクオはゆっくりと頷いて肯定を示す。
つまり、自己防衛し戦わなければ、いずれ大怪我を負うことになる。
それはやはり、ゲームへの強制参加を意味していた。
53 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:04:50.62 ID: 25QcKXsa0
まだ、このゲームが本当のことだと信じられない。
だが、ドクオとジョルジュの戦いが、それを全力で否定していた。
ただ漠然とした恐怖が、ゆっくりと僕の輪郭を食んでいき、終いには全てなくなって壊れてしまうような錯覚に襲われた。
ドクオが一言断って、呆然とする僕の手からケータイを取り戻す。
指にボタンが触れ、画面が切り替わる。
( ^ω^)「お?」
('A`)「それか……」
返そうとしたケータイの液晶。
そのポイント交換表の一番下に、書いてあるアイテムとその説明文に目が留まる。
必要なポイントは書いておらず、ただ「ゲームクリア特典」の一文が載っていた。
('A`)「プレイヤーの半分くらいはそのアイテムを目指してる。手に入れたって話は聞かないけどな」
(;^ω^)「これは……確かに欲しいお」
('A`)「だよな……」
手に入るのであれば、喧嘩をしたことのない僕でさえ、皆と同じように夢中になるだろう。
それほどまでに、そのアイテムは魅力的なものだった。
先ほどの戦いから、随分と時間が経つ。
ふと見上げた空は、赤く焼けていて、いつの間にかMサイズのコーラは、氷だけになっていた。
54 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:07:23.18 ID: 25QcKXsa0
その後もいくつか質問を繰り返した。
彼はよほど世話好きなのか、きっちりと僕の質問に答えてくれた。
細かいルールはいくつかあるが、今ある知識で十分にこのゲームを続けることが出来そうだ。
ふと、既にゲームクリアを目指す自分に気がつく。
それは明らかに、あの「ゲームクリア特典」だ。
あのアイテムの説明が真実だとするならば、僕もちょっとくらいの恐怖に耐えることが出来そうだった。
それにこのゲームプレイヤーは、頭上にレベルとハンドルネームが公開される。
とても目立つこの表示のため、雑踏の中でさえプレイヤーを見つけるのは容易い。
それを踏まえると、DQNプレイヤーに追われるくらいなら、まだ正々堂々と戦った方がマシに思えたのだ。
56 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:09:00.26 ID: 25QcKXsa0
('A`)「公式サイトのルール転用してる攻略ページあるから、教えてやるよ」
( ^ω^)「助かりますお」
何かあった時のために、メルアドを交換すると彼はそう進言してくれた。
ありがたくその好意に甘んじる。
すぐに彼から、公式サイトとhttp://ambrosius.web.fc2.com/というURLが届いた。
('A`)「まっ、頑張れよ。いつかレベルが高くなったら対戦しようぜ?」
( ^ω^)「おっおー! 頑張るお!」
ファーストフード店から出て、すぐにドクオは僕と反対の道へ進もうとした。
ふと、疑問が浮かび、最後に尋ねる。
57 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:09:26.15 ID: 25QcKXsa0
( ^ω^)「そういば、このゲームの名前って、なんていう読むんだお?」
('A`)「読めなかったのか?」
(;^ω^)「フヒヒwwwサーセンwww」
まったく、と軽く悪態を付いて、彼が口を開く。
('A`)「アンブロ……アンブロシウスゲームだ。覚えとけ」
( ^ω^)「ありがとうございますお!」
親切にしてくれた礼を含めて、僕は頭を下げた。
彼は笑って、また一言頑張れよ、と告げて踵を返す。
やがて彼の姿は雑踏に紛れ、Poison-Manの文字だけが見えるようになってから僕は家へと脚を向けた。
ふと気になって、ケータイで自分のステータスを確認する。
そこには、僕の3つの能力と0ポイントの文字にLEVEL1とハンドルネームの表記、そして
――それでは皆さん、ゲームクリアを目指し死ぬまで頑張ってください
と言う冗談のような一文が載っていた。
( ^ω^)達はゲームクリアを目指すようです
( ^ω^)SIDE・1 了
59 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:10:11.49 ID: 25QcKXsa0
注釈
"攻略サイトのアドレスについて"
http://ambrosius.web.fc2.com/
本当にアクセスできるおー
暇つぶしに本当に作ったので、ぜひ暇つぶしに、無駄なところ凝ってんなぁこのバカ作者、程度に見てくれ
だが、PCないから閲覧できねーよって奴も居るはず
携帯用サイトを作るという所まで、作者の暇つぶし魂が至らなかっただけです
なにとぞご了承ください
この攻略サイトは作者の暇つぶしに寄る単なるオマケ
ゲームのルールが細かいところまで載って居ますが、必要最低限は作中でキチンと説明する所存、なので読めなくても小説を読む上では問題ないはず
もし気が向いたら、携帯用を作るかもしれない
64 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/07(日) 02:12:29.31 ID: 25QcKXsa0
"空振りなのに重たい音?"
能力
推測して楽しんでくださいな
"タイトルのブーンが果てしなくキモいです……"
純粋にミスった
正直スマンかった
"ブーン・ドクオの能力は?
ゲームクリア特典って、なにさ?"
その内わかるから待て
では30分程度の休憩時間を頂いて、引き続き、(,,゚Д゚)SIDE・1をお楽しみください