3 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:24:33.39 ID: r/D+wdkJ0
第三話「幻想の果て」
空が紅く染まり、谷は橙色に染まる。
が、しばらくとしないうちに空と谷はその鮮やかな色を失っていき、
いつのまにか見渡す風景はほぼ黒と呼べるほどの紺色のベールに覆われる。
その闇の中を、ガラガラとした音を立てながら何かが進む。
――『箱』が。
4 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:25:49.86 ID: r/D+wdkJ0
( ^ω^)「おっお!塔に印火が立ってるお!今日はこれでおしまいだお!」
『箱』の中から前後を確認していたブーンが声を出す。
窓の外は、既にワイヤーの視認もおぼつかないほどに暗い。
そんな中『箱』の運行を続けるのは、昼間とは比べ物にならないほどの危険を伴う。
なので、塔に日暮れを示す火、『印火』が灯されればその日の通常運行は終了となる。
路線の最後の一周を回る間に、乗客は一人一人降りていった。
7 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:27:05.79 ID: r/D+wdkJ0
ξ゚听)ξ「お疲れ様ー」
(,,゚Д゚)「じゃ、俺たちはここで」
ギコとツンが自宅近くの塔で降りる。
('A`)「じゃ、今日の泊まり番よろしくな」
ドクオも続いて降りる。
8 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:28:08.14 ID: r/D+wdkJ0
『箱』の天井からはランプが垂らされ、内部を明るく照らす。
ブーンは温かい光を浴びながら出発点の塔へと箱を進める。
塔に着いた彼は、その日最後の仕事に取り掛かった。
箱を塔に停止させ、ワイヤーを外し、内部の整備をする。
(;^ω^)「よしっ!これであとは晩飯食って寝るだけだおー!」
一際大きな声で自らに喝を入れ、残った力を振り絞る。
9 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:29:04.77 ID: r/D+wdkJ0
塔近くの小屋。
主な部屋といえば台所と居間、仮眠室、あとは便所といったとこだろうか。
塔に『箱』を停めた後は別に自宅に戻ってもいいが、
この暗い中山道を通るのも合理的とは言えない。
10 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:29:56.55 ID: r/D+wdkJ0
( ^ω^)「ゆーうごはんのさかなさんー♪」
台所の釜に火を点け、その中に直接串にさした干物を一尾入れる。
イモや野菜を煮るのも忘れない。
\( ^ω^)/「晩飯デキタ」
12 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:31:41.92 ID: r/D+wdkJ0
焼いた干物に潰したイモ、それにキノコや山菜の塩茹で。
( ^ω^)「バリバリモチャモチャ」
食べ方は汚いながらも、干物の骨の一本すら残すことなくブーンは食べ上げていく。
最後に白湯をすすると大きく息を吐き『ごちそうさま』と呟く。
そのままゴロリと横になり、全身の力を抜いてリラックス。
( ^ω^)「食器洗うのめんどくせー」
( ^ω^)「明日の朝でいっかー」
どう見てもニートです。
15 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:34:30.35 ID: r/D+wdkJ0
食器はとりあえず水を張ったタライに浸け、仮眠室で毛布にくるまる。
後は眠るだけといった状態なのだが、何か忘れている気がする。
『なんだっけ』。
しばらくして心当たりが思い浮かぶ、
( ^ω^)「そういえばジョルジュ、今日帰ってこなかったお」
今までも何度か仕事中の彼に会ったことはあった、
それから帰る度、彼は割引目当てで馴染みのブーンとツンの『箱』に乗っていた。
毎回最初は断るが、ついついしつこさに根負けしてしまう。
本当は『翼』を持ち込む時はある程度の追加料金をとるべきなのだが、どうも弱い。
16 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:35:57.53 ID: r/D+wdkJ0
わざわざ馴染みのいない他の『箱』に乗るとも考えにくい。
墜落という言葉が頭をよぎるも、頭をブンブンと振って否定する。
今日は風も静かだ。
さらに、ジョルジュの腕も決して悪くはない。
こんな日に墜落事故を起こすくらいなら既に五回くらいは死んでいるはずだ。
( ^ω^)「多分、特別な仕事でもあったんだお」
その予想は近からず遠からず。
17 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:36:40.82 ID: r/D+wdkJ0
仕事自体はいたって普通のものだった。
が、特別だったのはその距離。
彼、ジョルジュが向かったのは『サロン造成地』と『ガイドラ湖』と呼ばれる場所。
いずれもブーン達の住む "V地区" の中心に属する場所。
地区の中でも端先のここからすれば一晩がかりの距離となる。
そしてまた、届け先自体も普通の場所ではなかった。
19 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:37:33.34 ID: r/D+wdkJ0
――
_
(;゚∀゚)「ちわー…郵便でーす」
巨大な建物の門の前に、『翼』と封筒を抱えた男が一人。
日は既に沈みきり、どこからか獣の鳴く不気味な声が聞こえる。
建物の正面では『ガイドラ湖』と呼ばれる湖が美しい水を湛えている。
20 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:39:07.44 ID: r/D+wdkJ0
_
(;゚∀゚)「…ここまで来て『閉店でーす、また明日ネ☆』とかねえよなおい。
そんな展開になったら俺泣いちゃうぜマジで」
まったく応答ののない門をじーっと眺める事数分、
_
(;゚∀゚)「「ペロ…!これはノッカー!」
_
(;゚∀゚)「なんてこったいwwwwwwwwwwwww」
やっと門に取り付けられたノッカーの存在に気付き、それを打ち鳴らす。
現れた守衛に郵便物を渡す。
淡い肌色の、しかし厚手に作られた封筒に真っ赤な封蝋が推されている。
そして、『くれぐれも受け主以外が封を開けないように』と、形式上の注意をする。
21 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:40:12.06 ID: r/D+wdkJ0
そんなこと言うまでもないということは分かっている、
このV地区の中枢、『ガイドラ事務院』。
そこの長官宛の手紙を不用意に覗くような馬鹿が雇われているはずがない。
例え故意に読もうとする奴がいても証拠を残す筈がない。
22 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:41:31.93 ID: r/D+wdkJ0
( ゚∀゚)「じゃ、そーゆーことで」
『翼』のハンドルを両手に握り、湖のある方向へと駆け出す。
そして事務院正面の長く、急な坂を踏み切り―
飛んだ。
23 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:42:21.49 ID: r/D+wdkJ0
上空の月明かりと、湖からの月明かり。
二つの光は彼の視界を明らかにし、そのまま彼は湖の上を大きく旋回する。
徐々に高度を落とし、ハンドル横に設置されたストッパーを外す。
シュルシュルと音を立て、『翼』に張られた布が緩んでいく。
出来上がった形状は落下傘、パラシュートだ。
そのまま湖のほとりに着地すると、目の前には暖かな光がいくつも灯っていた。
26 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:44:15.41 ID: r/D+wdkJ0
ズルズルと布を引きずり、光へと進む。
引きずられ皺が伸びた布は、カラカラとした音を鳴らす糸巻き器に巻き取られていく。
『翼』が元の美しい三角形を取り戻した頃、ジョルジュは一軒の建物の前にいた。
朱色ののれんがかかった平屋。
建物は奥に長い形状をしており、いくつか覗く窓には灯りがまばらに灯っていた。
28 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:47:53.07 ID: r/D+wdkJ0
ゆっくりとのれんを推し、尋ねる。
_
( ゚∀゚)「部屋、空いてるかい?」
('、`*川「空いてなきゃもう閉めてるよ、満員御礼ってね」
_
( ゚∀゚)「そいつぁ失敬」
ジョルジュはぺシャリと頭を叩き、安宿の奥へと入る。
_
( ゚∀゚)「そんじゃおばちゃん、もう寝るから飯はいらな」
ジョルジュが続きを言いかけた瞬間、彼の側頭部に高速で金属片が撃ち込まれる。
余りの痛みと衝撃に思わずジョルジュは転げまわる。
_
( ;∀;) 「いってええええええええええええぇぇぇええ!!
てめえ急に何すんだよおお!!」
29 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:49:27.65 ID: r/D+wdkJ0
側頭部を手でかばいながら叫ぶ、
大声を出す度に噴水のように血が吹き出ているが特に問題ではない。
('、`*川「鍵よ鍵。
あとさっき『おばちゃん』って感じのノイズが聞こえたんだけど聞き違いよねー?」
よく見ると床に鍵が転がっていた、どうやら頭にぶつけられたのはこれらしい。
そして、女主人は花瓶に手をかけながら訂正の言葉をジリジリと待っていた。
_
(#)゚∀゚)「すいませんお姉さん素泊まりでいいです」
鍵を拾うとすぐに退散する。
『明日の朝飯にはレバーか何かを食べるのがいいかもしれない』
などと考えつつ彼は部屋のベッドで横になった。
31 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:50:29.20 ID: r/D+wdkJ0
―
巨大な建物の、巨大な部屋
(; ><)「…」
気弱そうな男がペーパーナイフで切り開かれた封筒と、
その中に収められていた書類をじっと見ている。
( <●><●>)「事務長、どうなさいましたか」
スーツを着込んだ男が、はっきりとした口調で尋ねる。
33 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:52:01.24 ID: r/D+wdkJ0
(; ><)「…大変なんです」
( <●><●>)「そういって、いつもちゃんと解決することは分かってます」
スーツの男の口調に嫌味やおだての感情はない、
そこにあるのは絶対的な信頼だけだ。
(; ><)「…」
気弱そうな男は沈黙を続け、唸るように言葉を漏らす。
34 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:52:49.10 ID: r/D+wdkJ0
(; ><)「P地区が、『大峡谷』の底に平地を発見したそうなんです…」
( <●><●>)「!!」
スーツの男の目の色が変わる、
彼が何か言おうとするも、それを制するようにして気弱そうな男は続ける。
(; ><)「しかも、既に『架師』による大規模な開通作業が始まってるらしいんです…。
しかももう、1年も前から」
スーツの男は平静さを崩さない。
が、首筋に一筋の汗が伝っていた。
36 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:56:09.68 ID: r/D+wdkJ0
( <●><●>)「すぐにこちらも着工を始めるべきだということは分かっています、ビロード事務長」
(; ><)「今からやっても追いつけるかは分からないんです。
でも、それ以外には何もできないんです…」
( <●><●>)「やるしかないです、すぐにこちらも『架師』の本部へ連絡を」
(; ><)「手配をお願いするんです、ワカッテマス副事務長。
僕は明日の緊急会議のために調べものをしてきます」
( <●><●>)「分かりました」
ワカッテマスという男の返事を背中で聞きながら、ビロードは部屋を後にする。
(; ><)「『大峡谷』、ですか…」
37 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:56:52.74 ID: r/D+wdkJ0
世界の終わり、とまで呼ばれるほどの深い谷。
反対側に陸地は視認できず、もはや谷というよりは断崖といった方がよいだろう。
『大峡谷』
その底には、果てしない海があるとも、楽園があるとも、化け物が住むとも言われていた。
が、そんなものは御伽噺でしかない。
誰もが皆それに希望を思い浮かべながらも、その先にあるのも谷でしかないと諦めていた。
が、今回の発見が事実なら違う。
広大な平地があれば、それだけで莫大な作物が望める。
御伽噺の希望でなく、『現実的』な希望がそこに見え始めた。
――そして同時に、不穏も。
38 名前: ◆FEvaeH3GGA Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 17:58:18.88 ID: r/D+wdkJ0
( ^ω^)「すぴーすぴーwwwwwwwwwwwwww」
V地区のごく一部があわただしく動き始めている頃
若い『箱乗』は眠りについていた。
彼はまだ、何も知らない。
ざわざわと揺れる草木も、
静かに鳴く虫たちも、
高々と吠える獣たちも、
夜空を照らす月さえも、
何も、知らない。