26 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:13:01.39 ID: MYUiUBAr0

第二話「『環』と『翼』と」

『箱』が谷を横断する。
その中には、五人。先ほどの四人とおだやかそうな老人が一人。
ゴトゴトと、ワイヤーを伝い『箱』が進む感覚。

ブーンはこの振動が好きだ。
きっと、ドクオやギコ、ツン、他の『箱』乗りだって同じなのだろう。

( ^ω^)「ドクさん、あとどのくらいで到着予定かお?」

('A`)「んー、ここはあと5分ってとこだけど他はまだだ。
    到着してからも7分くらい待つだろうな。」

( ^ω^)「把握したおー」

 

28 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:14:34.11 ID: MYUiUBAr0
窓から顔を出しながら前後確認をする。
前方にも後方にも谷とワイヤー以外のものは見当たらない。
それでいいのだ、もし他の『箱』があろうものなら衝突事故の危険性すらある。

が、衝突事故はおろか、前後に『箱』を視認することすら近頃はまれだ。

 

 

29 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:15:19.82 ID: MYUiUBAr0

『箱』は電車のような乗り物だ。
決められた道以外を進むことはできないし急な方向転換もできない。
もしも、皆が好き勝手に『箱』を走らせれば衝突事故は絶えないだろう。

それを防ぐため、『箱』の運行方法は独特なものになっている。

 

 

31 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:16:31.01 ID: MYUiUBAr0
駅となる塔をいくつかのグループに分け、それぞれに一台ずつ『箱』を設置する。
そして、全ての『箱』が足並みを合わせ次の駅へ進む。
移動にかかる所要時間は各区間で予め計測しておき、
(最長区間所要時間+調整五分+乗客移動三分)
を基準としグループ内の塔を周る。

グループ内の数塔に他のグループと通じる別路線の『箱』を設置し、
必要ならばそこで乗り換えを行う。

 

33 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:18:10.60 ID: MYUiUBAr0
( ^ω^)「相変わらずややこしいっすねwwwwwwww」

('A`)「うっせ、おかげで安心して移動できるんだから安いもんだろ」

その後も、ブーンとドクオは適当な話題で戯れる。
そんな中一人の少女が『箱』の中央にある柱を眺めていた。
いや、柱の内部で回っている『箱』の駆動機関をだ。

 

 

35 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:20:05.29 ID: MYUiUBAr0
ξ゚听)ξ「ほー、こっちの歯車がこうなってるのね。
      で、こっちが抵抗軽減の歯車で―」

('∀`)「ざんねーんwwwそれは抵抗増大ですwwwwwww」

会話を中断し、柱の陰からひょっこりと顔を出したドクオがツンに突っ込みを入れる。
彼女は一瞬ムッとした顔を見せながらも、改めて歯車を見直す。

ξ;゚听)ξ「あ…!」

('∀`)b「どどんまい☆」

ξ#゚听)ξ (言ってることが正しいのが余計腹立つわね…、顔に加えて)

 

 

36 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:21:34.11 ID: MYUiUBAr0

さて、前述した四人の中で何もしていない男がいる。
不精ヒゲをまばらに生やしたその男は固めにふかしたイモを齧りながらぼーっと空を眺めている。

(,,゚Д゚)「おい、塩くれ塩」

彼に気付いたブーンが懐から塩の詰まったビンを取り出し、放り投げる。
ギコは瓶を受け取り、イモの表面が一部隠れるほどの塩を降り掛け、その部分から齧り直す。

(;^ω^)「そんな食べ方してたらいずれ尿が白くなりますお」

(,,^Д^)「いいんだよ、白いものなら充分すぎるほど出るからなww」

 

 

39 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:22:51.56 ID: MYUiUBAr0
ブーンがその言葉を聞いた瞬間、目の前の中年の顔にレンチが食い込む。
そのままギコはズルズルと壁に沿ってテディーベアが座るような姿勢で硬直した。
その様はまさに燃え尽きたジョー、白だけに。

ξ゚听)ξ「ストライク!」

窓に当たったら大変なことだったなあ、と思いながらブーンもイモを取り出す。
『塩がないと味気ない』、と思いつつも、彼の手から瓶を奪いにいくのもなんだか憚られるのでそのままにしておいた。

 

 

40 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:24:34.29 ID: MYUiUBAr0

そうこうしているうちに二本目の塔に着くと、沈黙を保っていた老人が腰を上げる。

/ ,' 3「…よう寝た」

ブーンは思わずズッコケそうになるのを堪える。
いつから寝てたのか、というかどうやって起きたのか。
老人は杖をつきながらゆっくりと歩み、まっすぐと少女へ。

/ ,' 3「ありがとさん、運賃じゃ。
    あまったのは嬢ちゃんのチップにしていいからのフヒヒ」

 

 

42 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:27:08.84 ID: MYUiUBAr0
いやらしさがムンムンとただよう台詞を吐きながらツンの手を握ろうとするも、
彼女は素早く運賃だけを受け取り、

ξ゚听)ξ「ありがとうございました!またのご利用をお待ちしております!」

棒読みの礼を述べる。

/ ,' 3「これがつんでれってやつかwwww」

老人は悪びれた様子もなく、まったくめげてはない。
おそらく今度乗ったときも同じことをするだろう、とブーンは確信した。
そして、ギコが今のやりとりを見ていなかったことに安堵を覚える。

老人は残ったチップを出口際に佇むドクオのズボンにねじこむと笑いながら『箱』から降りていった。

('A`)「ビキニパンツを履いてくればよかった」

何考えてんだ。

 

43 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:28:36.47 ID: MYUiUBAr0

(;^ω^)「ギコさーん、そろそろ巻くから起きてくださいお」

老人が降りると同時にギコをゆさぶり起こす、
ドクオの言った待ち時間の間に、ギコと『箱』の動力補充をしなければならない。

(,,゚Д゚)「ん…ああ、あれ?もう出発してたっけ?
     なんかさっき朝飯食ったばかの気がするんだが…」

ξ゚听)ξ「いいからさっさと巻いてよ、時間ないんだから」

(,,゚Д゚)「なんか釈明としねえなあ」

 

44 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:29:36.05 ID: MYUiUBAr0
原因となった張本人がここまで白々しくなれるものなのだなあ、と感心する。
ドクオは既にワイヤーを外し、一旦『箱』を塔に固定したようだ。
ギコも、首をかしげつつ中央の歯車柱へと寄ってくる。

( ^ω^)「そんじゃ、ギコさんいいですかお?」

(,,゚Д゚)「ん、おk」

ギコが柱に円形のハンドルのようなものを挿し込む。
そして、

 

 

45 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:31:06.30 ID: MYUiUBAr0

( ^ω^)「はあん!」

(,,゚Д゚)「そおい!」

( ^ω^)「ほああん!」

(,,゚Д゚)「ごあああ!」

( ^ω^)「ふっひいいいい!!」

(,,゚Д゚)「だらっしゃあああああああ!!」

奇声を上げながら男二人がハンドルを回す。
ハンドルはかなりの重さらしく、回るたびにギシギシと何かが伸びる音がする。
汗が飛び散り、熱気が充満、

ξ゚听)ξ「相変わらず暑苦しいわねー」

その様子を『箱』から既に脱出したツンが眺めていた。

 

 

47 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:33:14.23 ID: MYUiUBAr0

『箱』の動力となるのは巨大な発条機関、
もちろん、特殊な点はあるのだが巻いたエネルギーをそのまま放出するのは変わらない。

基本は高地から低地に向かうときに巻くのだが、どうしてもそれだけでは足りなくなる。
そのため、このような充填をする必要があるらしい。

('A`)「汗くせえ」

ξ゚听)ξ「変な汁飛んでる」

外からの罵声をよそにむさい二人組は一心不乱に発条を巻く。
いつの間にか上半身の服を脱ぎ、その顔に恍惚の表情すら浮かべている。

(*^ω^)ハァハァ

(*゚Д゚)ハァハァ

どうみても変態です本当にありがとうございました。

 

 

49 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:34:30.52 ID: MYUiUBAr0

ドクオの測った時刻通りに『箱』が動き出す。
乗客もさっきの老人一名から、五人ほどに増え、自然と私語がなくなる。

時間の計測をするドクオ、
歯車の勉強をするツン、
寝るギコ、

ブーンは形式的に窓から前後確認をする。
もちろん、前後のワイヤーには何も走っていなかった。

ワイヤーの、上には。

( ^ω^)「お!」

 

52 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:35:49.06 ID: MYUiUBAr0

『箱』から見える景色、谷の中を一つの三角形が進んでいる。
その三角形の下には人間、しかもブーンの見知った。

向こうも気付いたらしい、こちらに向かって上手く旋回してくる。
  _
( ゚∀゚)「よっ、こいつあ奇遇!!」

『箱』から10mほど離れた空中を進みながら眉毛の太い少年が叫ぶ。

(;^ω^)「あんまワイヤーに近寄んなおー!
      絡まったらこっちの運行に支障がでるおー!」
  _
(;゚∀゚)「間接的に俺はどうでもいいってことかよ!」

大声でのやりとりをしながら眉毛はやや距離をとる。

 

53 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:37:15.32 ID: MYUiUBAr0
  _
( ゚∀゚)「ま、配達終わったら乗るからよ!そん時は割引頼むぜ!」

眉毛は腕を引いて三角形を巧みに操り、方向を戻す。
しばらく眺めるうちに彼の姿は小さくなっていき、ついには谷の陰に消えていった。

 

55 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:39:35.00 ID: MYUiUBAr0

( ^ω^)「『翼』持ち込みは別料金になりますおー!!」

大声で叫ぶも聞こえたかどうかは分からない、
おそらく聞こえていたとしても聞いてないフリをするだろう。

ξ゚听)ξ「どしたのよブーン、大声出して」

( ^ω^)「ジョルジュが珍しくこんな朝早くから仕事してたお」

ξ゚听)ξ「へー、どういう風の吹き回しかしら。
      風が狂って死なないといいけどねー」

( ^ω^)「ま、後で乗るって言ってたからそん時に事情を聞くお」

眉毛の少年、ジョルジュ。
三角形の翼を操り、谷を渡る術を持つ人々、『翼手』の一人だ。

 

59 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:43:16.42 ID: MYUiUBAr0
――
  _
(;゚∀゚)「サロン造成地にガイドラ湖かー…。
     今日中に帰んのはきついかね、やっぱ」

ジョルジュは朝日を浴びながら谷を渡る。
風が頬を撫で、景色が次から次へと後ろへ流れていく。

配達先まで距離があるのか、飛行しながらもその表情は晴れない。

そこに、一陣の風。

谷底から吹き上がる力強い風、
その恩恵を受けた彼は高く、高くへと飛び上がる。

 

61 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:46:34.88 ID: MYUiUBAr0
眼下に谷、そして山脈までもが映る。
太陽と雲以外の視認できるものは全て自分の見下ろす先に広がっていた。
  _
( ゚∀゚)「…」

『がんばれ』と、風音の合間から陽気な声が聞こえた気がする、
もちろん、ただの気のせいに決まっているはずだ。

  _
( ゚∀゚)「へいへーい、そっちこそちゃんと手伝ってくれよー」

誰に聞こえるわけでもない、誰に言ったわけでもない。

ビュウビュウと吹く風の音を聞きながら、彼は空を進んでいった。

 

果てのない、空を。

 

 

 

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