1 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 20:52:58.85 ID: MYUiUBAr0

第一話「谷と『箱』と」

ニワトリの鳴き声が響く。
どこからともなく聞こえるその音は人々に目覚めをもたらす。
藍色であった空も東から上った光により明るさを増し、鮮やかな水色に映えていく。

そんな中一人の少年が陽気に家を飛び出し、狭い鶏小屋に近づく。

( ^ω^)「おっおっお、今日もいい子だお」

少年が鶏を撫でようとするも、鶏は慌てて彼から遠ざかる。
ちょっと落ち込んだ様子で少年は目当ての物を物色する。

 

3 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 20:54:31.29 ID: MYUiUBAr0

( ^ω^)「美味しい卵をありがとうだお、ケー、コー、ポポ、ピヨ」

微妙なネーミングを発揮しながら少年は柔らかな布に卵を包み右の腰へ、
左の腰にはやや固そうな荒地の布がいびつな膨らみをもち結びつけられている。

ゆっくりと小屋の扉を閉じると、彼はそそくさと奇妙な台の上に立つ。

( ^ω^)「それじゃ行ってくるお!」

鶏にか、それとも自分にか、誰へともなくその言葉を告げ、
少年は右手に吊り輪のようなものを握り、頭上のロープに輪の金具を固定する。

―そして、その足で台を、地を蹴り離す。

 

4 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 20:54:59.47 ID: MYUiUBAr0

 

少年の目の前に広がるは果てしない峡谷と山々、そしてその斜面にまばらに蒔かれたような建物。

 

峡谷の中を、ロープ一本に身を任せ、少年は滑っていく

 

 

6 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 20:56:09.65 ID: MYUiUBAr0

ガラガラと、古い自転車が走るような音をたて少年は宙を滑る。
ロープが続く先には二つの建造物、

それらがはっきりと見え始めた頃、少年は輪の内側を強く握る。
金具が収縮し、ロープとの抵抗が大きくなる。

ゆったりとした速度でロープの先にある台に着地、
手前に見えた小さい方の建物に入っていく。

( ^ω^)「ドクさん、おはようございますだおー」

('A`)「おうブーン、お前んとこは今日いくつとれた?」

ドクさんと呼ばれた、ドクオという腕だけ筋肉質の中年男が目にクマを浮かべながら尋ねる。
どうやら昨夜も仕事が長引いていたようだ。

 

7 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 20:56:51.69 ID: MYUiUBAr0

( ^ω^)「3つだお!4分の3だからなかなかの打率だお!」

ブーンと呼ばれた少年は陽気に答える、

('A`)「フヒヒ、こっちは6分の0だぜ!」

(;^ω^)「ダメすぎワロタwwwwwwwwwwwwww」

('A`)「最近気付いたけど1匹雄鶏が混じってた」

( ^ω^)「ちゃんと見分けるお」

 

 

8 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 20:57:48.25 ID: MYUiUBAr0

('A`)「まあいいじゃん、どうせお前らが分けてくれるんだし」

彼らが話しているのはその日とれた卵の数、
各家庭でとれる卵は日によってばらつきが多く、ゼロという日も少なくない。
なので、彼らは何人かで卵を持ち寄って毎日平等に分ける事にしている。

(;^ω^)「いやそこまで開きなおられると困るお」

この決まりだと飼っている鶏の数が多い方が損に思えるが、
一人当たりでは一番多い、六羽を飼育しているドクオが一番卵の収穫が少ないので問題はない。

 

 

9 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 20:58:31.10 ID: MYUiUBAr0

('A`)「すねんなすねんな、いつか雄鶏の肉持ってきてやるから」

(*^ω^)「まじかお!約束だお!絶対だお!?」

('A`)「持ってくるだけだったりしてな」

( ^ω^)「よしちょっとお前表出ろ」

 

 

12 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 20:59:10.03 ID: MYUiUBAr0

( ;ω;)「お願いだお…お肉食べたいお……」

(;'A`)「ああ分かった分かった!ちゃんと持ってきてやるから泣くな!」

( ^ω^)「わーいwwwwwありがとだおwwwww」

6(;'A`) (分かりやすいやっちゃなあ…)

ドクオはポリポリと頭を掻く、そこに―

ξ゚听)ξ(,,゚Д゚)「お肉と聞いてやってきました」

(;'A`)「ちょ、お前ら自重wwwwwwwww」

台所から現れた二人が急に声をかける。

 

 

13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:00:00.95 ID: MYUiUBAr0

―ここでは、平地というものが無い。
いや、ほとんど無いというべきだろうか。

どこまでも続く、長く深い谷。
空に刺さるような鋭さをもつ山々。
谷底を流れる澄み切った川。

自然に存在する平地など数えるほどしかない、
ほとんどは人工的に切り開かれたものだ。

 

14 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:00:30.76 ID: MYUiUBAr0

(;'A`)「あーもうお前ら!そんなに寄るな!寄ってくんな!」

 (( ξ゚听)ξ(,,゚Д゚)( ^ω^)「ニクニクニクニクニクニク」

(;'A`)「どこのオーガだ!怖えよ!」

よって放牧などそう簡単にできるわけがなく、
一般人にとっては鶏の肉でさえ非常に口にしがたい。

   (( ξ゚听)ξ(,,゚Д゚)( ^ω^)「胸!ささみ!もも!」

ここまでおかしくなるのも珍しいが。

――

 

15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:01:29.64 ID: MYUiUBAr0

――卵が焼ける香ばしい匂いが漂う、
巻き髪の少女は片手で綺麗に卵を割り、油の敷かれた鉄板に落としていく。

ξ゚听)ξ「そっちはあとどのくらいでできそう?」

その声の先にいるのは2人の男、
一人は先ほどのブーンと呼ばれた少年。
もう一人は、

( ^ω^)「ギコさん、イモはあとどのくらいですかお?」

(,,゚Д゚)「おー、あと2、3分で煮えるぞ。多分」

 

16 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:02:25.37 ID: MYUiUBAr0
これまた筋肉質の、しかもドクオと違って全身のバランスがとれたギコという中年だ。
ちなみにブーンという少年もそこそこに筋肉がついている。
なんだこのガチムキハウス。

ξ゚听)ξ「んじゃブーンは潰したイモを盛り付けといて、
      お父さんは急いで煮て」

(,,゚Д゚)「急いで煮るってどうやんのよ、ねえ」

ξ゚听)ξ「考えるな、感じろ」

(,,゚Д゚)「反抗期?ひどくね?」

(;^ω^)「ツン、あんまり親御さんをいじめるなお」

ちなみにこのギコ、巻き髪のツンという少女の親でもある。

 

 

17 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:05:22.00 ID: MYUiUBAr0

(;'A`)「なあ、俺は何にもしなくていいの?」

少々のハブられ感を感じながら落ち着かない様子でドクオが尋ねる、

ξ゚听)ξ(,,゚Д゚)( ^ω^)「いやいや、お肉さんはそこでのんびりしててくださいフヒヒ」

('A`)「え…、なんかその言い方だと俺がピザみたいじゃん…」

一瞬落ち込むも、どうやら遠慮する必要はないようだと判断したドクオは椅子から腰を上げ、ポケットから鍵を取り出す。

('A`)「じゃ、点検しとくから飯できたら呼んでくれ」

そう言い、彼は足早に建物を出る。
向かう先はブーンのやってきたロープとは逆方向の建物、

彼は鍵を指で玩びながら朝霧の中を進んでゆく。

 

18 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:06:44.51 ID: MYUiUBAr0

ブーンに呼ばれて戻った頃には既に朝食の準備ができていた。
机に並べられているのは卵焼きと、マッシュポテト。
卵焼きは一つだけだが、その大きさは4人で分けても充分なほどだ。
マッシュポテトは荒めに潰されたもので、未だに湯気がたちこめている。

( ^ω^)「うっはwwwwwうめえめえwwww」

ブーンは左手で卵焼きをつまみながら右手のスプーンでイモを掻きこむ。
きったねえな。

ξ゚听)ξ「あんたは猿か。もっと落ち着いて食べなさいよ」

(;^ω^)「アウアウ…」

 

20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:08:05.71 ID: MYUiUBAr0

(,,゚Д゚)「ぱくっ!ぱくぱく!」

ξ゚听)ξ「無邪気な少年みたいな食べ方すんなこの40前」

(,,゚Д゚)「ニャーン」

娘にかまって欲しいのか、歳に似合わずなかなか必死な男をよそにドクオは食事を終える。
ブーンもほぼ同時に食べ終える。

('A`)「ブーン、もう点検は済んだからお前は乗っとけ。
    始発の時間になったら俺も上がるからさ」

( ^ω^)「了解だおー!
      ツンとおじさんも早く来るんだお!」

ブーンは勢いよく小屋を飛び出していった。

 

 

22 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:09:18.36 ID: MYUiUBAr0
向かう先には、石造りの土台に木造の建築。
三層の構造に、その側面に取り付けられた階段。

そして、四本の柱のみで支えられた四角錐型の屋根。
奇妙な形状をした塔の最上部へとブーンは登る。
階段を登り終えた先には―

( ^ω^)「今日もよろしくだお。『綱箱』」

 

 

23 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/14(水) 21:09:57.74 ID: MYUiUBAr0
『綱箱』、と呼ばれたもの。
それは四本の柱の中心に存在していた。
上部からはワイヤーを通すためのパーツが飛び出ている。

四本の柱が作り出す四方向の門にはそれぞれワイヤーが通い、
そのワイヤーは一度『箱』の上部の梁に巻きつけられてから塔の最上部、四角錐の内側に固定されている。

ブーンは鼻歌混じりに『箱』に乗り込む。

ワイヤーの続く先は、谷。

どこまでも、どこまでも続く。

 

――( ^ω^)は『箱』に乗るようです

 

 

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